シェヘラザードに捧げる物語




 私が「ありがとう、アイスティーをお願い」と小首を傾げると、大賀くんは顔を一瞬だけ赤らめて席を立った。

 風邪かな。インフルエンザもこれから流行り始める頃だし、大事にしてもらいたい。

 私は何となしにレストランの中を見回した。

 明るくて清潔な店内。

 料理の匂いや活気に満ちた場所はホテルの宴会場を思い起こさせる。


「はいお待ち」

「ありがとう」


 薄茶色のグラスを受け取ってひと口含む。ミントの爽やかな香りが口全体に広がった。

 大賀くんはアイスコーヒーを頼んだようで、彼の前には真っ黒なグラスが置かれていた。それを無造作につかむと、傾けて一気に半分ほど減らす。


「それで、お金の件だけど」


 私がタイミングを見計らって切り出すと、大賀くんは首を横に振った。


「俺が勝手にしたことだからいいんだ」

「そうもいかないでしょう」


 お金については有耶無耶にすべきではない。どちらか一方のためではなく、お互いの為に。