シェヘラザードに捧げる物語




 思わず頬を押さえた。

 そうしないと口の端が上がって、すっごい間抜け面を晒しそうだったから。


「律は? 俺のことをまだ好きでいてくれてる?」

「わざわざ聞くの?」

「律の口から聞きたい」


 うなりながら顔を伏せる。ギュッと両頬を押さえて、どうにか表情を整えた。


「誠太郎くん、好きだよ……高校のときから」

「俺も」


 そう言って顔を近づけてくる彼の肩をつかみ、向かいの席に戻した。


「ここ外だよ」

「一瞬、一瞬だから」

「それだけじゃない」


 私はテーブルの上に両手を置いて、軽く指を組んだ。


「お母さんをどう説得するか、一緒に考えてほしいの」

「ああ……」


 誠太郎くんは鼻の頭をかいた。

 お母さんは誠太郎くんを味方だと思ってる。上手いこと話さないと、お母さんは裏切られたと思って頑なになってしまうかもしれない。


「うーん、律の話をベースにして考えるか……」

「お父さんは納得してくれてるから巻き込もう」


 悩む誠太郎くんの顔を盗み見ながら、こんなふうに物語が終わっても協力しあえるよう、私は密かに祈った。



〈了〉