シェヘラザードに捧げる物語




 上層部は上層部で大変なんだろうな。


「空気の良し悪しって実際に働いてみないとわからないし、悪かったらすぐ転職できるわけじゃないしな……」

「そういえば春日野さんは転職でしたね」


 私が「人間関係ですか?」と突っ込んでみると、「そこは秘密で」と誤魔化すように笑った。


「謎が多いほうがミステリアスでかっこいいだろ?」

「なるほど、ミステリアスなところを原嶋さんは気に入ったと」

「聞きましたよ、今日が初デートなんですよね?」


 私と川島さんが茶化すと、春日野さんは「応援してくれよ」と恥ずかしそうに笑った。


 そのタイミングで、ノックの音が聞こえてきた。


「お疲れ様です、お菓子を持ってきたんで休憩にしましょう」


 ドアに一番近かった私が開けると、主任が白い紙箱を持って立っていた。


「お疲れ様です、その前に判断が難しいものを見てもらいたくて」


 入ってきた主任に、川島さんがさっきの椅子を持ってきて説明する。