シェヘラザードに捧げる物語




「誠太郎くん……?」


 一瞬、言われた意味がわからなくて固まってしまった。


「俺が柴田さんなら同じことを言ったよ」



 ──俺が親なら転職をおすすめする。



 いつかの言葉が、記憶の底から身体中に反響する。

 手足の先から冷え切って、心臓まで凍りついたような気がした。


 どうして。


 どうして味方になってくれないの?


「俺も心配だよ。このままだと取り返しのつかないことになるんじゃないかって」

「ほら、大賀さんだってこう言ってるじゃない!」


 誠太郎くんの加勢に、お母さんが涙声で訴える。

 ……原嶋さんも、今の私と同じ気持ちだったのかな。


「……二人が言いたいことはよくわかった」

「じゃあ!」


 お母さんの瞳に希望が宿る。

 それをなるべく見ないようにして、私はお腹の底に力を込めた。



「結園ホテルは辞めない」



 二人の顔が失望で歪んだ。