シェヘラザードに捧げる物語




 あったかい……。幸せだ。


「好きだ、柴田」


 嬉しさで心臓が跳ねて、ひどく騒がしい。

 大賀くんのか、私のか、それとも……ううん、きっと両方。


「私も」


 小さな声だったけど、大賀くんは聞き逃さなかったらしい。

 両手で頬をはさまれ、顔が近づいて──


「なんでだ」


 私が両手で彼の口元を覆うと、もごもごと唇が動いた。くすぐったい。


「いやいや、ここ居酒屋」


 ここは個室だけど、公共の場でもある。

 こういう……恋人としての愛情表現は、プライベートな空間ですべきだろう。

 大賀くんも同じ考えらしく、不満そうな表情をしながらも席に戻った。

 叱られた子どもみたいな様子に、思わず笑ってしまう。


「俺、焦らされてんの?」

「違う違う」


 私は笑うのをやめて、逆に大賀くんの頬をはさんだ。


「私の家でね」


 大賀くんの頬が赤いのは、きっと酒のせいじゃない。