シェヘラザードに捧げる物語




「話したのか?」


 いくら関係者とはいえ、そう簡単にペラペラと……。

 個人情報保護のセミナーとかあのホテルではやってないのか?


「それが……」


 柴田はうつむいた。言おうか言うまいか迷っているらしい。

 俺が訝しんでいると、今まで黙っていた畑宮さんが口を開いた。


「私、妊娠してるんです」


 足が止まった。

 柴田も畑宮さんも足を止める。

 五十がらみのサラリーマンが、迷惑そうな顔をして横を通り過ぎていった。


「佩斗……君塚にそれを伝えたら、とたんに音信不通になったんです」


 俺も柴田も、なにも言えない。

 なにも言えないまま、彼女の話に耳を傾けるしかなかった。


「心配になって自分で調べてもなにもわからなくて……興信所にお願いしたんです」


 声が揺れる。


「そしたら……婚約者がいて……もうすぐ結婚するって」


 うつむき、震える肩を柴田が支えた。