シェヘラザードに捧げる物語




 言ってしまった。


 また憤って、「あんたになにがわかるの!」と飛びかかられるかもしれないのに。


「うん」


 最悪の予想は外れ、思いがけず静かな肯定が返ってきた。


「結婚して、幸せな家庭を築こうって言ってくれたの。畑宮から君塚になってって」

「いいですね。幸せな家庭」

「うん。憧れてた」



 ──私にはないものだったから。



 どうしようもない悲しみを、そっと吐き出すように。


 ぽつり、ぽつりとこぼされた内容をまとめると、あまりよくない境遇で育ち男性に騙されることも多かったらしい。

 それでも君塚さんと出会って、結婚の約束までしたというのにこの仕打ち。



 せめて地獄に、一緒に落ちてもらおうと決めた。



 そこまで話してくれた彼女を椅子に座らせる。ぼんやりした目が私の額を映すと、涙があふれた。

 ワッと私にしがみついて、「許して」「こんなはずじゃなかったの」と謝罪と後悔を繰り返し伝えられる。

 引きはがすこともできず、休めたのはずっとあとになってしまった。