シェヘラザードに捧げる物語




 暴れずに泣きじゃくり始めた彼女を、私が空き部屋まで送り届けた。

 川島さんが「私が送りますから休んでください」と言ってくれたけど、丁寧に辞退して畑宮さんに付き添った。

 パニックに陥った会場を落ち着かせるために、人はできるだけ多いほうがいい。


 私がそう伝えると、「送ったらすぐに休んでくださいよ」と念押しされた。そこまで信用がないんだろうか。


 とにかく畑宮さんの背中をさすりながら、私たちはゆっくりと近くの空き部屋へと向かった。



 ハンカチで額を押さえながら、うなだれた赤い姿を盗み見る。



 整えてきただろう巻き髪はぐちゃぐちゃで面影はない。

 真っ赤なドレスはめちゃくちゃで、ところどころ破けてしまっている。

 顔も……メイクはボロボロだろう。



「本当に大好きだったのに」


 誰もいない廊下に、落ちてきた言葉。

 ……拾われてほしくないかもしれない。


「……結婚したかったんですね」