シェヘラザードに捧げる物語




 そこまで思い返してから、ふと君塚さんの浮気相手──確か畑宮さんといった──の姿が浮かんできた。



 ──目の覚めるような、真っ赤なドレスだったな。



 会場に乗り込んできた彼女を見て、周囲に目配せをしながら、いつか劇で観た〝カルメン〟みたいだと頭の片隅で思った。

 混乱を巻き起こして新郎を破滅へと導く、奔放で直情的で、自由なファム・ファタール。

 あの妹さんのように冷静な人だったら、直接対決はしないで淡々と訴えたかもしれない。

 そっちのほうが誰にとってもありがたかっただろうけど、今さら言っても仕方のないことだ。

 身体をぐっと伸ばす。


 今日は掃除でもするかな。


 ついつい後回しにしちゃうから、いい機会だし全部掃除しちゃおう。

 マスクとエプロンを身につけて、掃除用具を取りに物置きのドアを開ける。掃除機はまだ動くよね?

 不安になったけどスイッチを押したらちゃんと作動した。