シェヘラザードに捧げる物語




「俺が心配なんだ、柴田」


 息を呑んだ。

 あの頃と同じ話し方、呼び方。


「……ずるいじゃない、大賀くん」

「何とでも言ってくれ」


 私が苦笑すると、大賀くんは大げさにそっくり返ってみせた。開き直ってしまった彼を説得するのはもはや不可能だろう。


「わかった、でも本当にすぐそこだよ」

「行くまでに倒れたりするかもしれないだろ」


 大賀くんはムッとした顔をして反論する。

 その幼なげな様子に声を立てて笑うと、彼は慌てて「痛くないのか」と聞いてきた。


「ズキズキしてる、今」

「やっぱり大怪我だ」

「皆にそう言われたよ、今日中に病院に行ってしばらく休めって」

「俺だってそう言うよ」


 大賀くんはノートパソコンをしまいながら、「このまますぐ病院か?」と訊ねてきた。


「うん、直帰」

「荷物は?」

「そこ」


 私が指をさした先にコートとバッグが置かれている。彼は当然のように私のところへと持ってきた。