シェヘラザードに捧げる物語




「それと仕事の件なんですが……」

「ええ、続けたいんですよね?」

「はい。ですが辞めさせて、得られるはずだった給料をホテルと君塚に請求すると……」

「……それは、やり過ぎですね……」


 二人して黙り込んでしまったときに、丁度よく前菜が運ばれてきたのでとりあえず食べることにする。

 黙々と口に入れながら、原嶋さんの両親の考えを推測する。

 職場を辞めさせたいのは、君塚が襲ってくるかもしれないと恐れているからだろう。引っ越しも視野に入れて動いているかもしれない。

 だとしても、今日明日というわけにはいかないはずだ。今はホテルや君塚を相手に訴訟や示談で忙しく、そちらに集中したいだろうから。



 ──カシャン!



 ……誰かが食器を落としたらしい。


 誰だろうと無意識に目を向ける。



「え」



 俺もフォークを落としそうになった。



「秀樹くん……?」


 原嶋さんの声がどこか遠く聞こえる。