シェヘラザードに捧げる物語




 ただ親のほうは接近禁止に加えて示談を望んでるんだよな。どうすり合わせるか。


「君塚の浮気相手もです。訴えるつもりはありません」

「……いいんですか?」

「はい。彼女も君塚に騙された被害者ですから」


 俺は出された食前酒に口をつけてから、彼女の意見を聞き続ける。


「披露宴をめちゃくちゃにされても?」

「むしろよかったんです。結婚してからでは遅いですから」


 彼女の穏やかな語り口には、怒りの感情は見当たらない。

 その代わり、深く底の見えない悲しみが口元に表れていた。


「今回の件は、私の男性を見る目がなかった……それだけです」

「いやいや、浮気するほうが悪いでしょ」


 あまりの自責っぷりに、思わず砕けた口調になってしまった。


「少額でも慰謝料をもらったほうがいいですよ。どちらが悪いか一目瞭然になりますから」

「でしたら、君塚だけに請求します」


 頑固な人だ。あの二人の娘なだけはあるな。