「ミネルバはテオドラの命令を無視して、燃料ギリギリの状態からも、ここにジェイクを呼んでくれたし……」
シャロンの言葉にジェイクは大きく頷く。ミネルバがジェイクを呼んだのは、明らかにミネルバの意志だった。作られた仮の話の中で色々騙されたが、それでも動けるギリギリの範囲でジェイクを最大限助けてくれたことがよく分かるのだ。
「それ、すごく驚いたわ」
テオドラはロイからも顛末を聞いたのだろうか。それとも魔女の力で何かを見たのだろうか。
本当だったらこの国に来るのはロイだけだったはずだ。
ロイとシャロンが結ばれてもテオドラが祝福したであろうことは、非常に不本意ではあるがジェイクにも理解できる。しかし、ロイがかつての主人であったこともミネルバは気付いたのだろう。ミネルバの機転と努力がなければジェイクはここにはいなかった。そしてシャロンが記憶を取り戻してくれたから、一番いい場所にお互い収まることができたのだと思う。大きな目的はテオドラとロイを会わせることだったとしても、それでも何か特別だと思えるのはミネルバがジェイクに見せる、妙に人間臭い表情のせいだろうか。
長い時を生きてきた精霊。
ロイによれば、長い年月を経て自分の意思を持ち、性格もずいぶん変わったのだという。シャロンのために女性の姿をとったことも衝撃なのだそうだ。しかも主人の命令をききつつも自らの意思で行動を起こすなど、主人の生命の危機でもない限りありえない。――そのはずだと。
「私も長く生きましたから」
女性体になり、ふふっといたずらっぽく笑うミネルバの姿はまるで人間のようだ。
「これも一つの付喪神かね」
ロイが謎の言葉を呟くが、それはきっとミネルバのような素晴らしい精霊のことなのだろう。
主人不在の時は自らを整備し、時に逃げ隠れもする館。
かつての魔女が残した英知を拾い集め、情報を整理し、自ら学習し続ける精霊。
その中でシャロンとジェイクを再び会わせ、おかげでテオドラとロイも会えた。ジェイクの無茶な魔法発動は、自分たち以外にも良い未来をもたらした事に気づき、少しだけ罪悪感が消えた。
しばらく話し合い、両親のことも考えてカロン姫は一度帰るべきだとシャロン以外の意見が一致した。
「カロン姫のご帰還もご結婚も、国中のみんなが喜びます!」
ゼノンに涙ながらに訴えられれば、シャロンとしても無下にはできないのだろう。もぞもぞと落ち着かな気に、ジェイクやテオドラをうかがっている。
シャロンとしても、実の両親である国王や王妃たちを悲しませるよりは喜ばせたいはずだ。
「でも、私とテオドラが同じところにいるのは危険だわ」



