時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

「実際テオドラは、魔力と前世の記憶を持っていた。でもそれは、私と二人一緒にいるときにだけ完全体になるものだった。だから賊は、私たちのどちらが求めるものなのか分からなかったのよ。二人で一つなんて思いもしなかったでしょう。私が生まれなければ、テオドラは前世なんて思い出さなかったのに。――その記憶を、魔力を、転移の前に半分私にくれたから、私には大人の感覚があった。記憶はなくても大人の感覚があったから生き延びることが出来た」

 大人の振りや、学んだことをすぐ理解できること。それらにどれほど助けられただろう。
 ただの三歳児が、紅蓮の館の補助を受けたとはいえ生き延びられたのはテオドラのおかげだ。

「――でもね、あなたが元気に帰ってきてくれたから……私は健康を取り戻せたのよ」

「テオドラ!」

 んん……と背伸びをし、ゆっくり起き上がるテオドラに抱き着きたいのを、シャロンは懸命に我慢した。

「私の目が覚めたってことは、あなたは王子様に会えたのね。結婚式を見られなかったのは残念だけど。あら、エルザまで。おはよう」

「お、おはようございます、姫様」

 すっかり健康を取り戻したテオドラの目覚めに、きっと向こうの部屋は衝撃を受けていることだろう。サラリとこぼれる白金の髪、キラキラ楽しそうに輝く青灰色の瞳、ゆったりした薄いワンピースを着ててもわかるメリハリのある柔らかそうな肢体。以前の淑やかな雰囲気に健康さが加わったことで、シャロンでさえ思わず目をぱちくりとさせるほどの美しさだ。

「王子様には会ったけど、結婚はしていないわ」

 一瞬唖然としたあと、エルザと手分けをしてテオドラの髪を梳かしたり温かいタオルで顔や手を拭きながら、シャロンは少し拗ねた声でそう言った。

「ひどいわよ、テオドラ。あれはあなたの為の宴じゃない」

 だがシャロンの訴えに、テオドラはこてんと可愛らしく首をかしげる。

「だって、あなた、王女だったらよかったって言ってたでしょう。だから本当のあなたになって、王子様と出会えたらいいって思ったのよ」

 カロンがいつか理想の王子と出会って恋に落ち、結婚式をあげたらテオドラが目覚める。そういう算段だったのだと彼女が無邪気に笑うので、エルザとシャロンはどっと力が抜けた。
 テオドラの目は、カロンがどんな王子と恋をしたのかと興味津々なのだから。

「だいたいシャロンの好きな方は、あなたの想いにも気づかずに結婚してしまったのでしょう。そんな男のことなんてさっさと忘れたほうがいいのよ。可愛いあなたにはもったいないわ」

「あ、ありがとう、お姉様」

 話した覚えもないのになんでバレてたの。そんなに恋心はバレバレだったのかとギクシャクするシャロンに、テオドラは嬉しそうに笑った。

「やだ、久しぶりに姉と呼んでくれたわね。嬉しいわ。じゃあカロンと呼んでも大丈夫?」

「ええ、もちろん。私はテオドラ姉様と呼びましょうか。それとも、白き魔女ブランシュ? ――いえ、元の発音ですと、ビアンカでしたわね」