時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

   ◆

 親善試合後半戦。
 カロン姫は体調不良で少し席を外していたが、決勝戦の途中から姿を見せた。少し儚げなその姿に、ジェイク達だけではなく敵側の志気も高まったらしい。試合の盛り上がりは最後を飾るにふさわしいものとなり、ギリギリの攻防の結果ジェイクたちの勝利に終わった。

 シャロンとの約束通りジェイクはダントツで得点をあげ、最優秀選手に選ばれた。

「王子に花をもたせる気はないのかね、うちの騎士は?」

 ロイが茶化すように言い、笑いが起こる。あえてジェイクが得点を取れるよう王子自ら補助していたのだから、誰も本気にはしていない。ロイは一位からはかなりの差があるものの、二番目に得点を上げていた。


「最も優秀な選手、ジェイク・ライクストン卿に、姫君より祝福が授けられます」

 ジェイクの名前が呼ばれ、各国の男たちからヤジが飛ぶ。王子ではなく護衛騎士でさえ平等に扱われたことへのやっかみ込みだ。地位に関係なく純粋に試合の活躍で最優秀者が選ばれたことが、男たちの気分をより高揚させているらしい。

「王子じゃなくても好機に恵まれるんだったら、俺も頑張ったのになぁ」
「よく言うわ。おまえ、めちゃくちゃ必死だったじゃないか」

 侍女に手を引かれ壇上に上がるシャロンの目はキラキラ輝き、すっかり元気そうでジェイクは安堵した。
 思わず笑みがこぼれた瞬間、シャロンがハッと息を飲み、次いで花が咲くように笑み溢れる。

「シャロン……」

 あまりの愛しさに声に出さずに名前を呼ぶと、彼女は残り数歩のところから走り出し、ジェイクの腕の中に飛び込んできた。シャロンをしっかり抱き止めながらも予想外の行動に嬉しさと困惑で動揺していると、今度はカロン姫の侍女達から、

「姫様ー、祝福は口づけを送るものですよー!」

 と華やかな悲鳴が上がる。それにつられ、男たちからも「男ならいけ!」と無責任なヤジが大きくなった。

 祝福の口づけは貰えるものと思っていたが、王女であるカロン姫のこの行動は一騎士にするものではない。これではまるで恋人だと公言しているようなものではないか。
 本当にいいのか? 彼女が困った立場にならないか?

「いいの?」

 いざとなったらこのまま攫うつもりで小さな声で聞くと、ジェイクを見上げるシャロンが照れたように笑う。

「いいのよ。こうするべきなの」

 頬を真っ赤にしながらも迷いのないその目を見て力が抜けた。

 彼女はあえてやったのだ。誰の目にも、王女のほうが異国の騎士に夢中なのだと見せつけた。ジェイクが困惑する姿も計算済みだったのだろう。この役をロイや他の男に譲らなくてよかったと心底安堵した。
 だからあえて男らしい満足感と優越感を見せつけるように彼女を抱き上げた。

「姫、祝福に口づけをもらっても?」

 ジェイクがよく通る声でそう問うと、カロン姫は
「あなたに祝福を」
 と、ジェイクの首に両腕を回す。

 ヤジが最高潮になる中、ジェイクは自分を世界で一番幸福な男だと思った。