時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

 ツキン――ッ

 シャロンは頭に細長い針でさしぬかれたような鋭い痛みを堪えたものの、エルザに速攻見抜かれてしまう。王妃も心配そうに微かに眉を下げ、
「ちょうど試合も休憩に入るから、少し休んでいらっしゃい」
 と言った。そのテオドラとよく似た面差しを見つめ、シャロンは何かが浮かんだ気がするが、捕まえる前にフワッと霧散してしまう。
 もどかしさと、断続的に刺すような頭の痛みに根負けし、シャロンは素直に頷いた。

「ではお言葉に甘えて、失礼します」

 立ち眩みを起こさないようエルザの手を借りてゆっくりと立ち上がり、彼女と一番近くにいた近衛兵の一人を伴い試合会場を離れた。その近衛兵がエルザの夫ゼノンだったことに気づき、少しだけ気持ちが楽になる。

 木陰を選んでゆっくり進んでいくと、不意に名前を呼ばれた気がした。頭痛がひどくならないようゆっくり視線を巡らすと、少し離れたところにジェイクの姿が見える。現金なもので、それだけでシャロンは一気に気分がよくなった。

「ライクストン様」

 エルザたちの手前名字で彼を呼ぶと、エルザは一度頷いて視線をめぐらせる。そして

「姫様、あちらでどうぞ」

 と囁くと、ゼノンに目配せをして少し離れた。その気遣いにシャロンは感謝し、ジェイクを手招きしてエルザの指したベンチの設置されている木陰に入る。エルザとゼノンが見て見ぬふりをしてくれているだけで周りには誰もいない。すべてではないが、ほんの少しだけ二人きりの空間を作れる場所だった。

 ジェイクに、彼女が仲良しの侍女で近衛兵はその夫だと教えると、彼は一瞬眉をあげたあと、エルザに会釈した。自分を推してくれている侍女だと気づいたらしい。

「ジェイク、どうかしたの?」

 会えたのは嬉しいが、どうしてここにいるのか不思議に思い尋ねると、彼は心配そうに眉を寄せた。

「いや。君の具合が悪そうだったから驚いて追いかけてきたんだ。大丈夫かい? 疲れたんじゃないか?」

 まさか一睡もしていないとは思わないのだろうが、心底シャロンを心配している様子のジェイクに、胸の奥からふつふつと幸福感があふれ出す。

 夢じゃない。そう思うだけで幸せで、なんだか涙が出そうだ。

「ジェイクの顔を見たら元気になったわ」
「本当に?」
「ええ、本当に」

 ジェイクの指を握り笑いかけると、彼はホッとしたように微笑んだ。

「今日のジェイク、とってもかっこいいわね‥‥‥」

 吐息と共に告げると、ジェイクは「へっ?」と間の抜けた声をあげたまま、なぜか硬直してしまった。