「ライクストン卿は、あの年でダリアの称号も得ている。我が国に来てもらえるなら願ったりだ」
ダリアの称号――。
シャロンは記憶をさらい、ジェイクが十八という若さでその称号を得ていたことに一瞬目を見開いた。王からの信頼の厚さがうかがえる。
なのにジェイクに流浪の騎士になってもいいと許可したのは、おそらくはいずれ友である「白き魔女」を連れ帰るだろうとの目論見があったのだろうとシャロンは思ったが、彼はそこまで考えていないように思う。
結婚の許可のためにジェイクは帰国が必要だが、王女との結婚のほうが彼には利点があるのだろうか‥‥‥。それとも紅蓮の館のシャロンのほうがいいのだろうか。彼が幸せになれる道を選びたいと一瞬悩み、次いでそっと首を振る。
二人の未来だ。どちらかを除け者にすることも犠牲にすることもしてはいけない。
この件は一人で悩まず、彼と相談しようと決めた。
「イズィナ国といえば、ロイ殿下も素晴らしい方だと思うが?」
一応と言った様子でジェイクの名目上の主の名前を出され、シャロンは「そうですね」と言った。予想してたとおりなのですっと細く息を吸い、特別な音を声に織り込む。
「ロイ様は素晴らしい方だと思います。今日の親善試合でもきっと活躍してくださることと思いますわ」
織り込んだ音は国王夫妻にしっかり届き、二人がコクンと頷く。時が切り離されたような一瞬の後、シャロンは改めて
「今日の親善試合が楽しみです」
と笑った。
ふと気づくと、やはり試合で大きく活躍していたロイがまっすぐにシャロンを見つめているのに気づいた。
痛みを覚えるほどの熱心なその視線に、急に胸の奥がざわめいて落ち着かなくなる。
――やっぱり私は、彼を知ってる?
ジェイクの友人だということは知っている。前世で彼がケリをつけてくれたことも。
でも違う。そうじゃなくてもっと前……。
ふと、ジェイクが初めて紅蓮の館を訪れたときのことを思い出した。
季節は違うが、どちらの時も前触れもなくバタンと大きな音を立てて扉が開き、現れたその姿を背の高い立派な騎士のようだと思った。たしかあの時その騎士が、
『見つけたぞ、シャロン。君は僕のものだ!』
と、嬉しそうに叫んだ……ように聞こえたのだ。
でもあのときは気のせいだと思った。なぜなら次の瞬間には、そこに十歳のジェイクがいたのだから。一瞬見えた騎士は今のジェイクたちのように立派な体躯の大人だったし、その髪は太陽にきらめくような金髪だった。ジェイクのような青みがかった黒髪ではなくて、金。
それは今、なぜか見つめ合っているロイのような濃い金色の……。
そこまで考えて首を振る。
「まさかね……」
そう。まさかだ。
彼はジェイクや自分と同じ年なのだから、あれがロイだった可能性は万に一つもない。あの時いたのはジェイクだけ。あれは一瞬太陽が見せた幻影だ。
シャロンは失礼にならないよう気をつけながら、さり気なく視線をそらす。
不思議なほど純粋な想いが伝わってくるが、あんな風に見つめられるべきなのは自分ではない。
シャロンが想うのはジェイクだけ。
だから突然頭の奥に現れた、幸せそうに笑う男性の姿を懸命に振り払った。同時に聞こえるハスキーな女性の声にも心の中で耳をふさぐ。
『――ドレスアップした男性って、それだけで見惚れる価値があるのよ』
頭の中に浮かぶ、見慣れぬ婚礼衣装に身を包む男女の顔は見えない。見えないのに、胸が苦しいほど懐かしい。
――誰? あなたたちは一体誰なの?
ダリアの称号――。
シャロンは記憶をさらい、ジェイクが十八という若さでその称号を得ていたことに一瞬目を見開いた。王からの信頼の厚さがうかがえる。
なのにジェイクに流浪の騎士になってもいいと許可したのは、おそらくはいずれ友である「白き魔女」を連れ帰るだろうとの目論見があったのだろうとシャロンは思ったが、彼はそこまで考えていないように思う。
結婚の許可のためにジェイクは帰国が必要だが、王女との結婚のほうが彼には利点があるのだろうか‥‥‥。それとも紅蓮の館のシャロンのほうがいいのだろうか。彼が幸せになれる道を選びたいと一瞬悩み、次いでそっと首を振る。
二人の未来だ。どちらかを除け者にすることも犠牲にすることもしてはいけない。
この件は一人で悩まず、彼と相談しようと決めた。
「イズィナ国といえば、ロイ殿下も素晴らしい方だと思うが?」
一応と言った様子でジェイクの名目上の主の名前を出され、シャロンは「そうですね」と言った。予想してたとおりなのですっと細く息を吸い、特別な音を声に織り込む。
「ロイ様は素晴らしい方だと思います。今日の親善試合でもきっと活躍してくださることと思いますわ」
織り込んだ音は国王夫妻にしっかり届き、二人がコクンと頷く。時が切り離されたような一瞬の後、シャロンは改めて
「今日の親善試合が楽しみです」
と笑った。
ふと気づくと、やはり試合で大きく活躍していたロイがまっすぐにシャロンを見つめているのに気づいた。
痛みを覚えるほどの熱心なその視線に、急に胸の奥がざわめいて落ち着かなくなる。
――やっぱり私は、彼を知ってる?
ジェイクの友人だということは知っている。前世で彼がケリをつけてくれたことも。
でも違う。そうじゃなくてもっと前……。
ふと、ジェイクが初めて紅蓮の館を訪れたときのことを思い出した。
季節は違うが、どちらの時も前触れもなくバタンと大きな音を立てて扉が開き、現れたその姿を背の高い立派な騎士のようだと思った。たしかあの時その騎士が、
『見つけたぞ、シャロン。君は僕のものだ!』
と、嬉しそうに叫んだ……ように聞こえたのだ。
でもあのときは気のせいだと思った。なぜなら次の瞬間には、そこに十歳のジェイクがいたのだから。一瞬見えた騎士は今のジェイクたちのように立派な体躯の大人だったし、その髪は太陽にきらめくような金髪だった。ジェイクのような青みがかった黒髪ではなくて、金。
それは今、なぜか見つめ合っているロイのような濃い金色の……。
そこまで考えて首を振る。
「まさかね……」
そう。まさかだ。
彼はジェイクや自分と同じ年なのだから、あれがロイだった可能性は万に一つもない。あの時いたのはジェイクだけ。あれは一瞬太陽が見せた幻影だ。
シャロンは失礼にならないよう気をつけながら、さり気なく視線をそらす。
不思議なほど純粋な想いが伝わってくるが、あんな風に見つめられるべきなのは自分ではない。
シャロンが想うのはジェイクだけ。
だから突然頭の奥に現れた、幸せそうに笑う男性の姿を懸命に振り払った。同時に聞こえるハスキーな女性の声にも心の中で耳をふさぐ。
『――ドレスアップした男性って、それだけで見惚れる価値があるのよ』
頭の中に浮かぶ、見慣れぬ婚礼衣装に身を包む男女の顔は見えない。見えないのに、胸が苦しいほど懐かしい。
――誰? あなたたちは一体誰なの?



