バカみたいだと思った。
嫌われていると思っていたから。
一方通行だと思っていたから。
このときは覚えてはいなかったけど、実際前世のときは常に近くて遠い、そんな関係だったのだ。
ジェイクの側にいる前世のシャロンは彼の姉や妹のようなものだった。彼が綺麗な女性の愛をかけて闘うところも、可愛いお嬢さんに惚れられたとデレデレしているところも、ずっと間近で見聞きしてきた。遠話石の向こうでジェイクが楽しそうに話すのを聞きながら、ギリギリと痛む胸の内が声ににじまないよう気を付けていたことを思い出し、また胸が痛む。記憶がよみがえったせいで、まだつい最近のことみたいな気持ちなのだ。
そんな彼が、十年もシャロンを想ってきてくれたという。
あんな目をした彼をシャロンは知らない。
他の女の子ではなく自分に口づけをくれた。求婚してくれた。自分を追いかけるために準備をしてきたのだと教えてくれた。
少しずつ違うのに、やっぱり戻ってしまうこの想いを、初めて告げた自分の気持ちを受け止めてもらえた。側にいると約束してくれた。
――夢なら醒めないで……。
しかしシャロンの記憶が戻ったことで、もう一つその奥の記憶も頭をもたげていた。昔から自分の中にあった「大人」の感覚だ。自分のもののような違うようなそれが、記憶として顔を出しそうでもどかしくて仕方がない。シャロンが時をかけたのは二度のはずだが、違うのかもしれないと思うと少し怖い。それでもジェイクがそばにいてくれると思えば、戦おうと勇気を出せた。
なぜならそれがテオドラと結びつくことだと、直感が訴えている。
魔女は直感を無視しない。それは経験や知識が教えてくれる警鐘や好機につながっているからだ。
会場がどっと沸く。
ジェイクが最後の得点を入れて試合が終了したのだ。
ジェイクがシャツの裾で汗を拭いつつ、会場を見渡すふうにしてさりげなくシャロンを見る。一瞬浮かんだ彼の笑顔に心臓が殴りつけられたような衝撃を受けた。
思わず彼の胸に飛び込みたい衝動と、熱を帯びた頬を両手で覆いたくなるのを必死で我慢していると、いつの間にか隣に来ていた母――王妃にクスクスと笑われてしまった。
「なかなか素敵じゃない?」
チラリとジェイクと国王を見た王妃がこっそりとシャロンに囁くと、一番近くにいたエルザがコクコクと頷く。
「お母様ったら」
急いで表情を戻し、すました顔でシャロンはにっこり笑う。
朝一で、国王夫妻にカロンとしてあいさつに行ったとき、父である国王から
「どうだ、カロン。伴侶にしたい男はいたか?」
と面白そうに聞かれ、自分の気持ちを正直に話してみた。思うところがあってのイチかバチかの賭けもあったが、エルザをはじめ、何人かの侍女ががすでに根回しをしていたらしい。父である国王の答えは「そうか」と、あっさりしたものだった。



