時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

 チュッと大きな音を立て子どものような接吻をされ、シャロンは大きく目を瞬いた。

「そりゃあ、生きていれば明日に何が起こるかなんて分からない。でもそれを恐れて、できるはずのことを諦めるなんてぼくは嫌だ」

 もう一度、今度は朝の時のように丁寧に優しく口づけられ、シャロンの強張りが緩む。

「シャロンはぼくを愛してるんだよね?」
「愛してるわ」

 無意識にこぼれた言葉に、ジェイクがニッコリと笑った。

「ぼくもシャロンを愛してる。君だけを愛してる。これからもずっと、心からの忠誠を君に捧げる」

 シャロンの指先に口づけられ、そこからじわじわと熱が上る。

「一人では無理だったことも二人ならきっとできる。ぼくは君がいれば、なんだってできそうなんだよ」

「ジェイク、泣きそうな顔になってる……」

「ぼくを泣かせることができるのは君だけだね」

 クスッと笑ったジェイクはふと考え、突然上衣を脱いで二の腕をシャロンに見せた。

「これ覚えてる?」

 少しは赤くなってよと笑いながら見せた逞しい腕には、小さな丸い痣があった。

「喧嘩したとき、君に噛まれたあと」
「えっ、やだ。ごめんなさい」

 まだ体格差がほとんどなかった子どものころには、取っ組み合いのけんかさえしたのだ。大人になっても残るほど強く噛んだことに、シャロンは青くなったり赤くなったりし、オロオロと謝り続けた。

「もともと君は強い子だったよ。臆病なんかじゃない。――だろ?」
「えっと、うん」

 困りながらも、ジェイクのいたずらっ子のように輝く目を見ながら頷く。

「これは君が付けた印。ぼくは君のものだって証だ」
「――意地悪」

 ぷくっと膨れたシャロンにホッとしたようにジェイクは笑い、再び跪いてシャロンの手を取った。

「こんな意地悪で身勝手な男だけど、一生君を愛し守ると誓う。だから――だからもし叶うなら、本当の家族にならないか?」

「家族‥‥‥?」

「うん。ぼくと結婚してほしい。――ねえ、ミネルバ。シャロンが同意してくれたなら許してくれるだろ?」

 シャロンが答えるよりも先に、ジェイクは養い親に確認を取ってしまう。ミネルバの答えは「もちろんです」だった。

「もう。私の答えが先でしょう?」

 怒ったふりをするシャロンに向けられるジェイクの顔は優しくて、どう否定してもその愛は疑いようがなくて、シャロンはコクンと頷いた。

 ぼくは君のもの‥‥‥。

 それはバラバラになった二つの欠片(パズル)がきれいに組み合わさったかのような完全な形に見えた。かつて一服の絵のようだった婚礼衣装の彼の隣にシャロンの姿が思い浮かび、カーッと頬が熱くなる。同時に二度も見た地獄も強烈に思い出され、シャロンは悲鳴を堪えた。

「ジェイク。二つ、約束をしてほしいの」