突然口調の変わったシャロンに、しかしミネルバは「それは不可能です」と答えた。
「なぜ? マスターとして命じると言ったのよ。お願いではないわ」
「ですが不可能です」
「では質問を変えます。テオドラは生きている?」
「…………適した解答がありません」
淡々とした答えに、シャロンはため息をつく。
「わかった。困らせてごめんなさい」
「シャロン、今のはいったい」
突然変わったシャロンの口調。淡々と感情のない声で回答するミネルバ。それは今まで一度もジェイクが見たことがないものだっただろう。
シャロンは髪をかきあげ、大きく息をついた。
「この館のマスターとしての権限を使おうと思ったの。でも私の順位は三位以下だから」
「三位以下?」
「そう。命令の権限には順序があるわ。騎士もそうでしょう?」
一位はこの館を作った白き魔女の夫。二位は白き魔女ブランシュ。三位は彼女らの子孫、あるいはミネルバに認められたこの館の住人だ。王家の人間に紅蓮の館のことが伝わっていないことを考えれば、この国にその権限を超える何者かがいる可能性は捨てきれない。
事実ミネルバの答えから、シャロンよりも上位の命令が既にされている可能性があることがわかった。もしくは考えたくないが、精霊の力が想像以上に弱っているか……。
だがミネルバは、それについては優しい笑みを浮かべるだけで何も答えてはくれない。テオドラに関するヒントが何もない。シャロンの頭の中の一部に霧がかかっていて、そこが大切な気がするのにどうしても見えない。
唇を噛みしめるシャロンの肩をジェイクが軽く掴んだ。
「テオドラのことは一緒に探そう」
ジェイクが跪き、俯いたシャロンの目を覗き込む。
「きっと彼女も、シャロンが傷つくことは望んでない」
「どうしてそう思うの?」
会ったこともないのに。
「君のお姉さんだろ? こんなに自分を慕っている妹を苦しめたいなんて、君なら思うかい?」
シャロンはぷるぷると首を振る。
ジェイクは微笑んでシャロンの隣に座り直した。
「ぼくは、君と二人なら何でも乗り越えられると思うんだよ」
そう言ってシャロンの頬を両手でそっと包む。これ以上ジェイクの話から目を逸らすことを許さないとでも言うように。
「君が信じてくれるまで何度でも言うよ。ぼくは君を愛してる」
「カロンは……可愛い女の子よね」
シャロンはうっすらと微笑む。あの朝はおとぎ話のような時間だった。今が同じ日の夜だとは思えないほどに。
でもあれは、なりたかった理想の私。本当の私じゃない。
「うん、カロンも可愛かった。でもぼくが愛してるのはシャロン、君だ。どちらの君も大好きだ」
真剣に訴えるジェイクの言葉はしかし、シャロンの心を覆うかたい殻に弾かれた――。
「なぜ? マスターとして命じると言ったのよ。お願いではないわ」
「ですが不可能です」
「では質問を変えます。テオドラは生きている?」
「…………適した解答がありません」
淡々とした答えに、シャロンはため息をつく。
「わかった。困らせてごめんなさい」
「シャロン、今のはいったい」
突然変わったシャロンの口調。淡々と感情のない声で回答するミネルバ。それは今まで一度もジェイクが見たことがないものだっただろう。
シャロンは髪をかきあげ、大きく息をついた。
「この館のマスターとしての権限を使おうと思ったの。でも私の順位は三位以下だから」
「三位以下?」
「そう。命令の権限には順序があるわ。騎士もそうでしょう?」
一位はこの館を作った白き魔女の夫。二位は白き魔女ブランシュ。三位は彼女らの子孫、あるいはミネルバに認められたこの館の住人だ。王家の人間に紅蓮の館のことが伝わっていないことを考えれば、この国にその権限を超える何者かがいる可能性は捨てきれない。
事実ミネルバの答えから、シャロンよりも上位の命令が既にされている可能性があることがわかった。もしくは考えたくないが、精霊の力が想像以上に弱っているか……。
だがミネルバは、それについては優しい笑みを浮かべるだけで何も答えてはくれない。テオドラに関するヒントが何もない。シャロンの頭の中の一部に霧がかかっていて、そこが大切な気がするのにどうしても見えない。
唇を噛みしめるシャロンの肩をジェイクが軽く掴んだ。
「テオドラのことは一緒に探そう」
ジェイクが跪き、俯いたシャロンの目を覗き込む。
「きっと彼女も、シャロンが傷つくことは望んでない」
「どうしてそう思うの?」
会ったこともないのに。
「君のお姉さんだろ? こんなに自分を慕っている妹を苦しめたいなんて、君なら思うかい?」
シャロンはぷるぷると首を振る。
ジェイクは微笑んでシャロンの隣に座り直した。
「ぼくは、君と二人なら何でも乗り越えられると思うんだよ」
そう言ってシャロンの頬を両手でそっと包む。これ以上ジェイクの話から目を逸らすことを許さないとでも言うように。
「君が信じてくれるまで何度でも言うよ。ぼくは君を愛してる」
「カロンは……可愛い女の子よね」
シャロンはうっすらと微笑む。あの朝はおとぎ話のような時間だった。今が同じ日の夜だとは思えないほどに。
でもあれは、なりたかった理想の私。本当の私じゃない。
「うん、カロンも可愛かった。でもぼくが愛してるのはシャロン、君だ。どちらの君も大好きだ」
真剣に訴えるジェイクの言葉はしかし、シャロンの心を覆うかたい殻に弾かれた――。



