「私の願いはたった一つだった。あなたに生きていてほしい。誰よりも幸せになってほしい。それだけなの」
ミネルバの話に呆然としているジェイクに、シャロンはやっとそれだけ告げる。
知られたくなかった。こんなにも醜いエゴを、ジェイクにだけは知られたくなかった。
ジェイクにとって二度目の人生は数々の悲劇が回避されていた。
シャロンは何も覚えていなかったけれど、彼の結婚が決まったらしいと知ったとき、それが前とは違う女性だということを無意識に分かっていたのだと思う。
「ぼくが、他の人と結婚してもよかった?」
傷ついたように言われても、シャロンとしては頷くしかない。あの宴の日、ジェイクが長い口づけを交わしていた女の子が王女だということはすぐに分かった。彼の幸せを喜ぼう、そう思った。王女と結婚すれば、爵位をもらってどこかの領主になることは確実だからだ。
私も王女だったらよかったな。
冗談めかしてそうテオドラに言ったのはシャロンだ。多分寂しかった。認めたくはなかったけど苦しかった。何年も会ってないのに、もっともっとジェイクが遠くなった気がした。
彼は家族同然だから。そう言い訳して、何年も一方的に、未練がましく送る手紙もやめることができなかった。世界中にある「ムシ」を使って集める情報の中にジェイクの姿を探した。会いたかった。
なぜか次期領主の道を義兄に譲った彼がその手腕を存分に発揮できるよう、いつか陰から手伝えたらと夢見ていた。ジェイクの前に姿を見せることは絶対にしないと決めていたけれど、この結婚でそれももう必要ないことになったと認めるしかなかった。
「なぜ」
ジェイクの掠れた声にシャロンは目をそらす。
「だって、私はあなたに嫌われたでしょう」
めでたい日だったのに、あれほどまでに彼を怒らせてしまった自分を許せない。震えながら謝罪と別れの手紙を書いたことを、今でもはっきり覚えてる。悲しかった。泣き叫びたかった。でもそれ以上に、そんな自分にうんざりしていた。だからあの半年前の事故で自分が役に立ったなら、自分が生きた理由があったと思えたから、これで終わりでよかったって思っていたのに……!
「なのにテオドラは? いったい彼女はどこに消えたの?」
なぜ自分が彼女がいるべき場所にいるのか分からない。まるで夢のように消えてしまったテオドラ。
自分が生きている限り、大切な人を失い続ける! もう嫌だ。もう嫌だ!
私は死んだはずなのに。
ジェイクを救って満足だったのに。
どうしてまだここにいるの。私のせいでテオドラが消えてしまった。
それがシャロンには、未来が不自然に変えられたからだとしか思えなかった。
「ミネルバ。マスターとして命じます。テオドラの居場所を探して」



