ジェイクはシャロンを抱いていることなど感じさせないほどの速さで森を駆け、あっというまに紅蓮の館についた。シャロンがおろしてと言う間もなく、招き入れるように開いた扉を当たり前のようにくぐられてしまい動揺した。
ネイディアでは結婚した夫婦が最初に家に入るとき、花婿が花嫁を横抱きにして玄関をくぐる習慣があるからだ。
――ジェイクは知らないのよ。うん、知らないから仕方ないわよね。
『君以外の人と結婚はしないよ?』
考えないようにしていた言葉がまた思い出され、恥ずかしさで両手で顔を覆う。
――もう、いや。
「シャロン、着いたよ」
「うん」
「顔、真っ赤だけど。熱があるんじゃないか?」
「――大丈夫」
誰のせいだと思ってるのだ! と言いたいのを我慢してミネルバを呼ぶと、大きな水晶に懐かしい女性体の精霊が現れた。
「ああ、ミネルバ!」
水晶に駆け寄り、最愛の精霊の両頬に音だけの接吻をする。
「ごめんなさい、心配したでしょう」
「お帰りなさい、シャロン。元気そうで何よりです」
何も変わらない優しい声に安堵し、しばし再会の喜びをかみしめると、さっそくシャロンはミネルバに自分の記憶を話すことにした。聞きたいことがたくさんある。ジェイクにはほかの部屋で待っていてもらいたかったが、一緒にいたほうがいいと彼女に言われ、悩んだものの了承した。
「ぼくに聞かせたくないことがあるのか?」
気遣うようなジェイクの顔を見て、ゆっくり首を振る。記憶を整理できた今、彼も知ったほうがいいのだと思う。彼は、未来を大きく変えたのだから。
「ねえジェイク。時を超えたのはあなたなの? ――私は、死んだのよね?」



