時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

 姉が亡くなった記憶がごっそり抜けているらしいシャロンの肩を抱き、その頭に口づけを落とす。

「もう夜が明けてしまった。戻らないと。大丈夫?」

 ハッとしたように顔をあげたシャロンは、一瞬戸惑った様子を見せた後しっかりと頷いた。
 この後はまた、それぞれの立場に戻る。何も解決していないが、これ以上ここにいるわけにはいかない。

「シャロン、今夜会える?」
「今夜?」
「一緒にミネルバの所に行かないか?」

 今の道ではシャロン一人では館まで行くのは難しいだろうが、ジェイクが一緒なら難しくはない。そう説明すると、状況を確認したシャロンは少し考えてから頷いた。

 待ち合わせの時間を決め、そのまま立ち去ろうとする彼女の手を握って一瞬抱きしめる。

「ひとつだけ聞かせて。カロンとシャロンは同じ気持ちなのか?」

 ジェイクに恋をしたと、大好きだと言ってくれたカロン。
 前世か今世、どちらかの記憶を取り戻したものの、混乱している様子のシャロン。
 シャロンがジェイクを愛しているのは分かっているが、それは今も家族に対するものなのかもしれない。カロンはその気持ちを恋だと錯覚したのかもしれない。

 何も答えられない様子のシャロンを解放し、ジェイクは弱々しく微笑んだ。

「ぼくは君を愛してる。――ただ一人の女性として。それだけは覚えていて」

 こくんと頷き、うつむいたまま踵を返したシャロンの耳が赤かったことに少しだけ勇気を得た。

 ――少なくとも、意識はしてもらえたわけだ。

 それでも、一度手に入れたと思ったものが手のひらをすり抜けた空虚さにジェイクは大きく息をついた。彼女の記憶が戻ったところで、事態はまだ何も変わっていない。謎も、身分も……何一つ。

「大丈夫だ。まだあきらめない」

 王女だったカロンはジェイクを受け入れてくれた。それは思ってもいなかった希望につながっているからだ。万が一それが叶わなかったとしても、ジェイクはカロンを絶対に守ると改めて心に誓った。

「たとえぼくの手で幸せにすることが叶わなくても、必ず彼女の幸せを守る!」