時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

 遠い異国までそんな話が流れていたのかと驚く。

「ちがう。王女殿下の護衛騎士に誘われただけだし、僕は断った」

「そうなの?」

「うん。だって十八になったら君を追いかけるつもりだったからね。そのために僕は自由の身になったんだ。ずっと君に会いたかったんだよ」

「本当に?」

「本当だ。最初はどこにいるのかわからなかったけど、君の状況をミネルバに教えてもらった」

「ミネルバに?」

 驚くシャロンに、彼女の事故の後の話をジェイクが知る限りの範囲で教える。
 ふいに自分がミネルバに連絡を取る手段がないことに気づいたのか、キョロキョロするシャロンに森の中にある紅蓮の館の場所を教えた。夜が明けてきたので、館の屋根が赤く光るのがよく見える。

「あんなにところに……」

 崖と森に阻まれた先を見ながらシャロンが唇をかんだ。

「ぼくがミネルバを呼んでみるよ」

 ジェイクは本を取り出し代わりにミネルバを呼んだが、やはり結界に阻まれているのかミネルバの応答はない。ここから紅蓮の館までの道も、さっき戻ってきたときよりも弱くなっているように見える。

「ミネルバは、その本を通してジェイクに連絡してきたの?」

「そう。でもやっぱりここだとうまくいかないみたいだ。さっきまでぼくは紅蓮の館にいたんだよ」

 ソファーを借りて泊ってきたことを告げると、シャロンは少し驚いたような顔をした。考えてみると、前世と今世をあわせても、ジェイクがあの館に泊まったことはない。

「シャロンがいない時にすまない」

 慌てて謝ると、シャロンは別に構わないと笑った。ミネルバが許したのだから、と。

 ふいにシャロンが「テオドラは……?」と呟いた。

「亡くなったテオドラ姫のことは誰も覚えてないみたいなんだ。シャロンもそうなのか?」

「いえ、そんなまさか。テオドラが死んだ? え? どうして」