時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

「あなたにはお詫びをしなくてはいけません。私の名前はブランシュじゃないんです。本当は……カロン……ネイディアの第六王女……なの」

 カロンの絞り出すような声に、ジェイクはうめくように「うん」と頷いた。その後何も言ってくれないことにカロンがそっと様子を伺うと、彼がどこかが痛いような顔をしているのが分かり胸が痛む。

「ごめんなさい、騙すつもりなんてなかったんです」
「いえ、こちらこそ申し訳ないことをしました」

 ジェイクの硬い声に、カロンは夢の終わりを告げられたように思えた。
 彼がスッと片膝をつき、次いで敬うように頭を垂れられ泣きたくなる。

「おやめください。お願い、今だけは態度を変えないでください。そんなことをしないで」

 今だけはお願い。
 そう言って手を引くと、困った顔をしつつもジェイクが立ってくれたため、四阿の長椅子に腰を掛けようと促した。並んで座り、彼の手を握ったまま震えが止まらないことに情けなくなる。話をしようと何度も唇を湿らせるのに、何も声にならない。

「シャロン……」

 あ、まただ……。
 この独特の訛りはカロンの胸の奥をくすぐる。それでも王女と呼ばれなかったことに少しだけ落ち着きを取り戻した。

「ライクストン様」

 見つめ合うと、ジェイクはふっと表情を緩ませ、
「態度を変えない代わりに――ぼくのことはジェイク、と呼んでもらえますか?」
 と言った。

 その悲しそうな顔と提案に一瞬戸惑うが、「友だちみたいに」と小さな声で付け足され了承する。
 友だちの名前なら……

「ジェイク様」

「様はいらない……」
「――ジェイク?」
「うん……ありがとう。では、話をしま……いや、話をしようか、シャロン」

 急にとても大人に見えるジェイクにカロンは恥ずかしくなって俯き、握っていた手をそっと放した。

「それで、どうして急に打ち明けようと思ったので……思ったんだい?」

 少しぎこちなく尋ねられ、カロンは頑張って顔を上げた。
 誠実であろうと決めたのだ。こうして話せるのは最後。グズグズしている暇などないのだから。