時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

 市場からカロンがこっそり帰ると、留守を守ってくれていたエルザから、あったことを根掘り葉掘り聞かれた。晩餐にも出ないほうがいいと提案してくれたのも彼女だ。会った直後に、ジェイクにカロンが王女だとばれたくないとの気持ちを慮ってくれたのである。
 エルザは十四歳年が離れているせいか、姉というか、若いお母さんといった雰囲気の女性だ。カロンが三歳のころから侍女として世話をしてくれているという。

「でね、彼にはお慕いしている方がいるみたいよ。振られたみたいだけど、今も諦められないんですって」

 彼の想い人はどれほど美しい女性なのだろう――気付くとつい、そんなことを考えてしまう。でも、どうしてこんな気持ちになるのかさっぱり分からない。

 うっすら涙目になっているカロンに、エルザは黙ったまま優しい笑みを浮かべた。

「ねえエルザ。王女の姿で彼に会ったらさすがにバレるわよね。きっと騙されたって怒るわよね」

 結果的には騙しているわけだから怒られても当然なのだが、彼に嫌われるのは嫌だと思う。軽蔑されたらと考えるだけで居ても立っても居られない。
 そうは思っても、宴が終わるまで顔を合わせないなんてありえないだろう。バレるのは時間の問題だ。

「男の人なんて、女の素顔と化粧で化けた顔の区別なんてつきませんよ」

 ケロッととんでもないことを言ってのけるエルザに、カロンはクスクス笑った。さすがにそこまで濃い化粧はしたことがないはずだ。

 ――でも、もしかしたら?

「私が侍女だったら、彼を引き留められたかしら……」
「振った女なんか忘れて私にして、ですか?」
「そこまでは言ってないけど」
「そうですか? そこまで言わないと、宴が終われば帰ってしまって二度と会えませんよ」
「え、それはいや……」

 反射的にそう言ってしまい、カロンは真っ赤になった。まもなく十八になる大人なのに、手に入れられるわけのないものを欲しがっている。今の自分はまるで駄々をこねる幼子(おさなご)みたいだ。

 ジェイクはどうみても、イズィナ国第三王子の信頼が厚いであろう騎士だ。例えカロンが侍女だったとしても、ここにいてとも、ましてや一緒に連れて行ってとも言えるわけがない。

「前は王女だったらよかったって、言ってませんでしたっけ?」

 からかうように口にしたエルザは、自分の発言に「おや?」と首を傾げた。

「すみません、王女でよかった、ですわね」
「ごめんなさい、覚えていないわ」

 慌てて言い直すエルザにカロンは苦笑して返す。王女という自覚がないカロンに、王女でよかったと思うことがあったのかもしれないがまるで覚えていない。ましてや王女だったらよかったなどとは、まるで意味が分からない。