◆
カロンはウキウキしながら賑やかな市場を見渡した。
色々な国から商人が来ているという話だったが、想像以上に多種多様な品があふれていて目にも楽しい。
「すごいですね!」
無意識に隣に立つジェイクの腕にきゅっと抱き着いてしまったことに気付いて慌てて離れるが、はぐれると困るからと引き寄せられてしまった。
「ここではぐれたら、ぼくはきみを見つけられる自信がないよ」
「そ、そうですね。はぐれたら困りますものね」
そう、これはしかたがないこと。こんな見たこともない規模の人ごみではぐれたら困るのだ。この異国の騎士の隣にいるのはドキドキするのに妙な安心感があり、ちょっぴり変な気分で、つい笑みがこぼれてしまう。
実際手をつないでからは、ずっと頬が緩みっぱなしだ。信じられないくらい嬉しくて楽しくてふわふわしてて、なのにほんの少しだけ泣きたくなる。自分の心がよく分からない状態だった。
――こんなにドキドキするのは、エルザが変なことを言ったせいだわ。
カロンが王宮を抜け出すのにも、一人で長い時間留守にするのは無理があった。でも絶対に出かけたかったので、悩んだ末、仲のいい侍女エルザの手を借りることにしたのだ。
正直に早朝の出来事を打ち明けるとエルザは口を押え、「まああ」と目を輝かせた。
「姫様が外に行きたいと仰るなんて」
そう言って浮かぶ涙をぬぐい、次にきりっとした表情に切り替わる。
「お任せください。姫様は今日は少し熱っぽいということにしましょう。お昼は誰にも邪魔されずゆっくりお眠りいただきます」
つまり、誰も部屋に入れないということだ。
「大丈夫かしら」
不安になってそう言うと、エルザはにっこり笑う。
「私が大丈夫にしますよ。姫様の初めての逢引ですもの。少しくらい羽目を外すくらいしたほうがいいんです」
「デートだなんて……そんなんじゃないけど」
ごにょごにょとカロンが否定するものの、
「とうとう姫様にも恋の季節が!」
と目を輝かせるエルザの耳には届かないらしい。何やら念願のとか、着飾らせた甲斐が、などと意味不明なこともブツブツ言っているが、テキパキと外出の支度を整えてくれるのでカロンとしても何も言えなくなる。どうやら相手が王子の誰かではなく、夕べ密かに評価の高かった、ジェイク・ライクストンという一騎士だというのが、彼女の憧れを刺激しているようだ。最近何か流行りの恋愛小説でも読んだのだろうか。
――まあ、私も彼以外は顔もロクに覚えていないんだけど……。
ジェイク以上の美丈夫はたくさんいた。彼が仕えている王子はその最たる人だったはずだ。でも顔は全く覚えていない。ジェイクと目が合ってから、多分周囲の人はぼんやりした影のようなものだったからだ。
耳の奥で、まるで君はぼくのものだと言われ続けているような錯覚に、気を抜くと頬が熱くなってしまう。
彼は、私に魔法をかけたの?
この国で使われる魔法とはちがう、おとぎ話に出てくるような魔法を。
「ライクストン様、あそこで服が買えるようですわ。見に行ってみましょう」
くいっと手を引っ張るカロンに向けられるジェイクの眼差しに、再び胸の奥が大きく脈打つ。
「そうだな。そこで服を見たら、次は奥の屋台の焼き菓子を食べに行こうか」
彼の提案に、ずっと気になっていた甘い香りの正体に気づく。と同時に、こんなに大きな男性が甘いものを食べようと誘ってきたことに心がくすぐったくなり、カロンは大きく笑った。
「はい!」
カロンはウキウキしながら賑やかな市場を見渡した。
色々な国から商人が来ているという話だったが、想像以上に多種多様な品があふれていて目にも楽しい。
「すごいですね!」
無意識に隣に立つジェイクの腕にきゅっと抱き着いてしまったことに気付いて慌てて離れるが、はぐれると困るからと引き寄せられてしまった。
「ここではぐれたら、ぼくはきみを見つけられる自信がないよ」
「そ、そうですね。はぐれたら困りますものね」
そう、これはしかたがないこと。こんな見たこともない規模の人ごみではぐれたら困るのだ。この異国の騎士の隣にいるのはドキドキするのに妙な安心感があり、ちょっぴり変な気分で、つい笑みがこぼれてしまう。
実際手をつないでからは、ずっと頬が緩みっぱなしだ。信じられないくらい嬉しくて楽しくてふわふわしてて、なのにほんの少しだけ泣きたくなる。自分の心がよく分からない状態だった。
――こんなにドキドキするのは、エルザが変なことを言ったせいだわ。
カロンが王宮を抜け出すのにも、一人で長い時間留守にするのは無理があった。でも絶対に出かけたかったので、悩んだ末、仲のいい侍女エルザの手を借りることにしたのだ。
正直に早朝の出来事を打ち明けるとエルザは口を押え、「まああ」と目を輝かせた。
「姫様が外に行きたいと仰るなんて」
そう言って浮かぶ涙をぬぐい、次にきりっとした表情に切り替わる。
「お任せください。姫様は今日は少し熱っぽいということにしましょう。お昼は誰にも邪魔されずゆっくりお眠りいただきます」
つまり、誰も部屋に入れないということだ。
「大丈夫かしら」
不安になってそう言うと、エルザはにっこり笑う。
「私が大丈夫にしますよ。姫様の初めての逢引ですもの。少しくらい羽目を外すくらいしたほうがいいんです」
「デートだなんて……そんなんじゃないけど」
ごにょごにょとカロンが否定するものの、
「とうとう姫様にも恋の季節が!」
と目を輝かせるエルザの耳には届かないらしい。何やら念願のとか、着飾らせた甲斐が、などと意味不明なこともブツブツ言っているが、テキパキと外出の支度を整えてくれるのでカロンとしても何も言えなくなる。どうやら相手が王子の誰かではなく、夕べ密かに評価の高かった、ジェイク・ライクストンという一騎士だというのが、彼女の憧れを刺激しているようだ。最近何か流行りの恋愛小説でも読んだのだろうか。
――まあ、私も彼以外は顔もロクに覚えていないんだけど……。
ジェイク以上の美丈夫はたくさんいた。彼が仕えている王子はその最たる人だったはずだ。でも顔は全く覚えていない。ジェイクと目が合ってから、多分周囲の人はぼんやりした影のようなものだったからだ。
耳の奥で、まるで君はぼくのものだと言われ続けているような錯覚に、気を抜くと頬が熱くなってしまう。
彼は、私に魔法をかけたの?
この国で使われる魔法とはちがう、おとぎ話に出てくるような魔法を。
「ライクストン様、あそこで服が買えるようですわ。見に行ってみましょう」
くいっと手を引っ張るカロンに向けられるジェイクの眼差しに、再び胸の奥が大きく脈打つ。
「そうだな。そこで服を見たら、次は奥の屋台の焼き菓子を食べに行こうか」
彼の提案に、ずっと気になっていた甘い香りの正体に気づく。と同時に、こんなに大きな男性が甘いものを食べようと誘ってきたことに心がくすぐったくなり、カロンは大きく笑った。
「はい!」



