時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

 そう彼に聞かれ、正直に頷く。

「今頃シャロンは、輝く金の髪の美しい乙女に成長してるでしょうね」
「まるで見てきたように言うんだな?」
「魔女の噂は時々聞きますから」

 事実シャロンの噂は時々届いた。
 遠い異国で求婚されたことも。だが彼女の手紙には「一目散に逃げたわ!」と書いてあったので、コンラッドと笑い転げた。彼女の手紙はちょっとした冒険譚のようだ。

 そう。なぜかジェイクへの手紙は、誰かと読むことを前提に書いているような距離感があった。少し寂しいが、それでいいのだと思っている。
 彼女がジェイクを忘れていない。今はそれだけでいい。
 こちらからは返事も出せないのに、時折手紙を書いて寄こすくらいには、近しいと思ってくれている。
 まだ彼女を姉や妹のようには思えないが、元気で、どこかで笑っていてくれればそれでいいのだ。

 自分のように紅蓮の館に入れた者はいるのだろうか。
 願わくば、それだけはいないといい。

 だがある時シャロンからの便りがピタリと途絶えた。
 それほど遠い土地にいるのかもしれないが、何か良くないことが起こったのではないかとジェイクは気が気ではなかった。

 そんなころ、友好国の一つである南方の国ネイディアのから宴の招待が王の元へ届き、王の息子である第三王子が王の名代で参列することになった。表向きは長らく病床にいた末の姫の快気祝いの宴だが、その実、その姫の婿になるものの選定であることが内々に知らされているという話だ。その護衛騎士の一人としてジェイクが選ばれた。

 ジェイクは十八歳になれば領地に帰ることが許されていた。流行り病を収めた功績や山賊討伐をはじめとする数々の功績の恩賞は何がいいか問われ、一介の騎士でありながら自由の身を保証してもらったのだ。

「その前にひと仕事頼みたいのだ」

 十八になったジェイクに、所属する騎士団団長は言った。
 第三王子とは同じ年で友人関係でもあったため、気心の知れたジェイクが選ばれたことは考えるまでもなく分かった。

 ジェイクは悩んだ。ネイディアは友好国だが海の向こうにあり、一介の流浪の騎士となれば行ける機会はそうそうない。宴や王女の話は前世では聞いたこともなかったが、前の時は父の死や領主を継ぐこと、自分の結婚などで慌ただしかったため、耳にしてなかったのかもしれない。

 もともとは領地に戻って噴火の後始末の後旅に出るつもりだったが、シャロンの手掛かりをつかめるのではと心が揺れた。彼女が最後にいたのが南方とは限らないが、ネイディアは魔女が最初に降り立ったとされる国だ。今も複数の魔女の館が残っていると聞く。行けば何かが分かるかもしれない。

 一晩返事を保留したジェイクが、考え事をしながら夜星を眺めていた時だ。
 突然呼び出してもいないのに本が現れた。浮き上がる文字や図形の代わりに光が噴き出すようにあふれ出す。

「ジェイク! よし、やっと繋がったな!」
「師匠⁈」

 本に上に立つように現れたのは、紅蓮の館の精霊、今は男の姿をしたミネルバだった。