時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

「先ほどはすみません。見苦しい姿を見せました」

 ジェイクが絞り出すようにそう言うと、正騎士は肩をすくめ目をすがめた。

「いや? おまえも王女殿下に喰いつかれてたなら、仕方がないよな」

 状況をしっかり把握していたらしい騎士は蓮っ葉に言い、苦笑いしてジェイクの頭をぐりっと撫でる。

「目を付けられたようだから、せいぜい逃げとけよ。王女殿下の相手は骨が折れるぞ」
「……はい」
「――シャロンはあと二、三年もすれば、極上の美女になるだろうな」

 ――そんなこと知ってる。

 心の中でそう答えたつもりだった。だが気付くと「彼女は今でも美しいです。ぼくにとっては誰よりも!」と叫ぶように言っていた。
 だが正騎士は「ふーん」と気のない返事をする。ジェイクの返事より、シャロンの帰った方向が気になっているようだ。

「で、シャロンはお前の何なんだ? 婚約者、ではないよな?」
「まだ違います」
「ほお、まだ、ね。じゃあ恋人、って感じでもないか」

 ずばり決めつけられ、奥歯をかみしめる。そう。ジェイクはまだ、彼女に何も告げていない。

 本当なら今日初めての口づけを交わし、将来の約束もしたかった。彼女は戸惑うかもしれないが、喜んでくれると信じていた。
 事実、今日のシャロンは明らかにジェイクを意識していたはずだ。なのに彼女がこんな立派な騎士と口づけを交わした後では、まだ子どものジェイクなど完全にかすんでしまう……。

 はじめて自分が二十四歳ではなく、まだ十四歳なのが悔しかった。

「じゃあ、私が結婚を申し込んでもいいわけだ」

 ガバッと顔をあげると、騎士はジッとジェイクを見下ろす。
 ジェイクは決闘を覚悟した。美しい女性の愛を勝ち取るための決闘は日常茶飯事だ。だが今までは子どもの年齢だったから、巻き込まれたことはない。でもこの騎士はシャロンに目を付けた。彼女の美しさに気付いてしまった。
 彼女は誰にも渡さない。

 いっぱしの戦士のような殺気をまとったジェイクに騎士は一瞬目を見開き、次いで大きく息をついて苦笑する。

「そんな顔をするな。新年早々野暮なことはしたくない。ちゃんと彼女に謝っておけよ」

 そう言って手を振ると、騎士は大広間に戻って行く。
 その大人の余裕に、ジェイクはさらに自分の小ささを痛感する。前よりいっそうガキになった気分だ。
 時をさかのぼって色々学んだはずなのに、惚れた相手には行動が起こせない。うまくいかない。彼女を守りたいのに。一番そばで笑い合うのは自分でありたいのに。

 目の端に何か見え、空を見上げ