時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

 ジェイクは苛立ったまま、走り去るシャロンを見ないよう目をそらした。彼女を追いかけるコンラッドを止めたくなったが、こぶしを握って思いとどまる。
 腹の中がどろどろとしたもので渦巻いて、歯を食いしばっていないと取り返しのつかない悪態をついて暴れだしそうだ。

「ジェイク? どうしたの? 今の方は?」
「いえ、なんでもないです、王女殿下。何か飲み物を取ってきましょう」
「ありがとう。優しいのね」
「いえ……」

 本当は怒鳴りつけたかった。だが相手は女性、しかも王女だ。彼女が悪いわけではない、自分のせいだ。でも怒りのやり場がなかった。

 新年の鐘が鳴る前にシャロンを探した。
 客人に精一杯対応していたが、本当は思ったように彼女のそばに行けなくて苛立っていた。鐘の音が聞こえたとき温かい体温をそばで感じ、振り向いたときにはがっちり抱き着かれ、王女に口づけをされていた。

 焦って引きはがしたかったが、できるはずがない。
 反応しないよう直立していたが、少し唇を離した王女に拗ねたように見上げられ、「ちゃんと腰に手を回して!」と命令され、従うほかなかった。二歳年上の王女の甘い香りとやわらかな肢体に、クラクラしなかったと言ったらうそになる。気付いたときにはつかの間その口づけを楽しんでしまい、ハッとして離れた。

 無礼にならないよう早口で新年のあいさつをしながら周囲を見回したとき、シャロンが正騎士に抱き寄せられ、口づけられるのが目に入った。

 ――嘘だ……。

 騎士と微笑み合う姿にカッとした。
 シャロンが今まで見たこともないくらい美しく見えた。
 立派な騎士に嫉妬した。本当だったら、自分もあんな姿だったのに!

 これ以上シャロンをここに置きたくない一心で帰れと言った。一瞬涙ぐんでいたようにも見たが、彼女が泣くはずがないと首を振る。

 大けがを見ても顔色を変えず冷静に対処し、大男が悲鳴を上げてもひるむことなく骨を接ぐ。彼女はジェイクと取っ組み合いのけんかをするほど気が強いのだ。ジェイクの腕には、昔シャロンに噛まれた跡がうっすらあざのように残っている。
 
「くそっ」

 口の中で悪態をつき、王女から隠れるように大広間から離れた。
 そこに髪をかき上げながら、やれやれと言った様子でさっきの正騎士が歩いてきた。

「ああ。ジェイク、だったな?」

 名前を呼ばれ、歯を食いしばりながら頷いた。

「シャロンは一人で帰ったぞ。こんな夜中なのに、一人で大丈夫だって」

 ハッとして顔を上げるが、彼女は魔女だ。森は彼女をきちんと守る。