驚いて顔をあげると、いつのまにか正騎士の一人がそばに立っている。彼は面白そうに目を細め、「なんでもないです」と、慌てて立ち上がろうとするシャロンに手を貸してくれた。
「ありがとう存じます」
礼儀正しく淑女の礼をすると、騎士は驚いたように一瞬目を見開き、柔らかく微笑む。
「白き魔女は仕草も洗練されてるのだね」
「いえ、とんでもないです。それに私のことは白き魔女ではなく、シャロンとお呼びください、騎士様」
「騎士様じゃないよ。コンラッド・ロゼットだ。じゃあ私のことはコンラッドと呼んでくれるかい、シャロン?」
気安い騎士の言葉に、今度はシャロンのほうが目を丸くした。
十四歳とはいえ、貴族なら嫁いでもおかしくない年齢だ。初対面の高貴な男性が自分を名前て呼べなどとは、求愛も同然の行為。さすがに戯れが過ぎるだろう。ロマンス小説のような展開に思わず口ごもっても仕方あるまい。
だが、シャロンの奥から大人の記憶の片鱗が勝手にこぼれ、あでやかな笑みが浮かんだ。
「ただの庶民に向かってお戯れが過ぎますわ、ロゼット様」
そしてもう一度丁寧に礼をし大広間に戻ると、一瞬呆けいていたコンラッドが後を追ってきてシャロンの手を掴んだ。
「すまない。からかったつもりはなかったんだ。許してくれ」
その焦った顔が意外過ぎ、シャロンは思わず少し噴出した。と同時に、自分の倍は年がいってるような男性に謝らせてしまって申し訳なく思う。
「許します。なので顔をお上げになってくださいませ」
シャロンの手を握りながら顔をあげたコンラッドは、そのままホッとした表情を見せた。
その時、外から新年を告げる鐘の音が響き渡る。
「年が明けましたね」
ふと大広間を見ると、ジェイクと、彼の首に腕を絡めるようにした美しい令嬢が口づけを交わしていた。周りを見ると、おめでとうの言葉と共に口づけが交わされているのが目に入り、シャロンは少し頬を染める。
たしか新年の鐘が鳴っている間、隣にいる異性に魔除けに口づけをする習慣があったことを思い出したのだ。いつもは異性とは言えないが、ミネルバにキスのまねをしているのだが……。
「シャロン? 私も君に口づけてもいいかい?」
礼儀正しく尋ねるコンラッドを見、大広間にいるジェイクを一瞬横目で見る。彼はまだ口づけを交わしている最中だ。
「えっと、はい」
蚊の鳴くような小さな声で了承すると、コンラッドはシャロンの腰に腕を回して引き寄せる。少し考えるような間があった後、彼は二度、羽根が撫でるような無害なキスをした。
「大いなる女神メレディアの加護がありますように」
「あなたにも」
礼儀正しく新年のあいさつを交わして微笑み合うと、後ろから「シャロン!」と怒鳴りつけるような声がした。驚いてコンラッドから離れると、ジェイクが真っ赤な顔をしている。
何か悪態をついているジェイクにグイっと腕を引かれ、思わずよろけた。
「どうしたの、ジェイク」
「――っ! 帰れ」
「えっ?」
食いしばった歯の隙間から、絞り出すような言葉が理解できず思わず聞き返すと、彼はもう一度低い声で「帰るんだ」と言った。
シャロンは戸惑い泣きたくなったが、ジェイクから離れ一礼し足早に踵を返した。その奥から可愛らしい声が彼を呼ぶ声が聞こえたが、心の中で耳をふさいだ。
――私、何か粗相をしたんだわ。
彼があんなに怒る姿を初めて見た。つかみ合いになるほどのけんかをした時だって、あんなに怖くはなかったのに。
コンラッドが追いかけてきて送ると申し出てくれたが、シャロンは首を振って断った。
「私は魔女ですから、一人でも大丈夫です」
そう、一人でも大丈夫……。
だから早く館に帰ってベッドに飛び込まないと、涙がこぼれそうだった。
「ありがとう存じます」
礼儀正しく淑女の礼をすると、騎士は驚いたように一瞬目を見開き、柔らかく微笑む。
「白き魔女は仕草も洗練されてるのだね」
「いえ、とんでもないです。それに私のことは白き魔女ではなく、シャロンとお呼びください、騎士様」
「騎士様じゃないよ。コンラッド・ロゼットだ。じゃあ私のことはコンラッドと呼んでくれるかい、シャロン?」
気安い騎士の言葉に、今度はシャロンのほうが目を丸くした。
十四歳とはいえ、貴族なら嫁いでもおかしくない年齢だ。初対面の高貴な男性が自分を名前て呼べなどとは、求愛も同然の行為。さすがに戯れが過ぎるだろう。ロマンス小説のような展開に思わず口ごもっても仕方あるまい。
だが、シャロンの奥から大人の記憶の片鱗が勝手にこぼれ、あでやかな笑みが浮かんだ。
「ただの庶民に向かってお戯れが過ぎますわ、ロゼット様」
そしてもう一度丁寧に礼をし大広間に戻ると、一瞬呆けいていたコンラッドが後を追ってきてシャロンの手を掴んだ。
「すまない。からかったつもりはなかったんだ。許してくれ」
その焦った顔が意外過ぎ、シャロンは思わず少し噴出した。と同時に、自分の倍は年がいってるような男性に謝らせてしまって申し訳なく思う。
「許します。なので顔をお上げになってくださいませ」
シャロンの手を握りながら顔をあげたコンラッドは、そのままホッとした表情を見せた。
その時、外から新年を告げる鐘の音が響き渡る。
「年が明けましたね」
ふと大広間を見ると、ジェイクと、彼の首に腕を絡めるようにした美しい令嬢が口づけを交わしていた。周りを見ると、おめでとうの言葉と共に口づけが交わされているのが目に入り、シャロンは少し頬を染める。
たしか新年の鐘が鳴っている間、隣にいる異性に魔除けに口づけをする習慣があったことを思い出したのだ。いつもは異性とは言えないが、ミネルバにキスのまねをしているのだが……。
「シャロン? 私も君に口づけてもいいかい?」
礼儀正しく尋ねるコンラッドを見、大広間にいるジェイクを一瞬横目で見る。彼はまだ口づけを交わしている最中だ。
「えっと、はい」
蚊の鳴くような小さな声で了承すると、コンラッドはシャロンの腰に腕を回して引き寄せる。少し考えるような間があった後、彼は二度、羽根が撫でるような無害なキスをした。
「大いなる女神メレディアの加護がありますように」
「あなたにも」
礼儀正しく新年のあいさつを交わして微笑み合うと、後ろから「シャロン!」と怒鳴りつけるような声がした。驚いてコンラッドから離れると、ジェイクが真っ赤な顔をしている。
何か悪態をついているジェイクにグイっと腕を引かれ、思わずよろけた。
「どうしたの、ジェイク」
「――っ! 帰れ」
「えっ?」
食いしばった歯の隙間から、絞り出すような言葉が理解できず思わず聞き返すと、彼はもう一度低い声で「帰るんだ」と言った。
シャロンは戸惑い泣きたくなったが、ジェイクから離れ一礼し足早に踵を返した。その奥から可愛らしい声が彼を呼ぶ声が聞こえたが、心の中で耳をふさいだ。
――私、何か粗相をしたんだわ。
彼があんなに怒る姿を初めて見た。つかみ合いになるほどのけんかをした時だって、あんなに怖くはなかったのに。
コンラッドが追いかけてきて送ると申し出てくれたが、シャロンは首を振って断った。
「私は魔女ですから、一人でも大丈夫です」
そう、一人でも大丈夫……。
だから早く館に帰ってベッドに飛び込まないと、涙がこぼれそうだった。



