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半年後。
ロイはテオドラと結婚し、ネイディアの一貴族として暮らすことになった。
本当なら海路の往復や手続きで一年は必要なところを半分で済んだのは、眠っていた科学技術を駆使した通信機器のおかげだ。
モニセア及び遊牧の民で魔王信仰と王女拉致事件にかかわった者たちは、それまでの数々の罪の裁きを受けることになる。
唯一マトヴェイだけは実際の罪がなかったこともあり、特殊な耳飾りが付けられ解放された。
「懐かしいものが出てきたな。まさか本当にできるとは思わなかったよ」
ジンジン痛むであろう耳に手をやったマトヴェイに、テオドラは弱々しく微笑む。それはかつて、超能力が暴走しないよう制御するために開発されたピアスの改良型というものだそうだ。
脱出しようと思えばできたはずの彼がそれをしなかったことで、力には懐疑的(もしくは信用された)かもしれないが、彼の求めに応じてテオドラが作ったそれは、テオドラかロイが解除しない限り誰にも外せないという。
モセニアの自治は出来なくなり、普通の一領地となる。
反発が少なかったのは上層部がすべてとらえられたことよりも、むしろマトヴェイが領主として戻ってくることだった。
「領民に愛されてるのですね」
ピアスの装着に立ち会っていたシャロンがそう言うと、マトヴェイは
「私の中の無意識下にあった常識が、彼らには慈悲に見えたんだろう」
と、肩をすくめた。そしてテオドラを見て柔らかく微笑む。
「ご結婚おめでとうございます。テオドラ王女。――二度とお目にかかることはないでしょうけど、あなたの幸せを祈っています。ずっと」
テオドラが住むのはモセニアと真逆の位置にある土地だ。
今の交通手段と立場では、二度と会えないは揶揄ではない。
それでもシャロンはジェイクに
「――でも、もしもテオドラに何かあったら、この方はきっと駆けつけてくるはずだわ。それだけは確信できるの」
と、囁く。
そんなシャロンにもマトヴェイは笑顔を向けた。
そのいたずらっぽい笑みは年相応の十七歳の少年の顔で、シャロンもつられたように笑顔になった。
「君も結婚おめでとう。花嫁衣裳を見たかったな」
もう一人の妹として。
口の動きで最後にそう付け足されたことに気付いたシャロンは、くすぐったそうに肩をすくめた。
この少年が前世、「シスコン」を自称していたことを記憶の底から引っ張り出したシャロンは、「生まれた時代、場所が違っていたら……」と苦し気だった。
「でもジェイクが時をかけなければ、悲劇は続いていたのよね」
ジェイクが過去に戻り新たに作られた未来は、再びテオドラが攫われる未来も、前世を思い出さないままであれば起こっていたであろう元双子の悲劇も回避させたのだ――と。
今後、一領地の上に立つ彼の責務は重い。でも今のマトヴェイの中身はいい年のはずなので、若い体と大人の知恵や知識で乗り切ることだろう。
紅蓮の館は、シャロンが生涯「レンタル」することになった。
ロイがそれを決め、テオドラも了承したのだ。
シャロンは「紅蓮の館の子」だからと。
ネイディアとイズィナはテオドラとロイによって絆を深めたが、その裏でもう一人の姫が一騎士と結婚したことは、ネイディア王族とごく僅かな関係者のみの秘密だ。
不幸な事件で死んだと思われていたカロン姫。
自ら動く館に拾われ大事に育てられ、白き魔女の再来と親しまれていたシャロンがその姫だと知らなくても、もともと彼女を国に迎えたかったイズィナは大歓迎だった。
ダリアの称号を持つ騎士と白き魔女は自領を持たず、国中を、時には世界を旅する。人々を助ける知恵を、知識を教えるために。
それでも二人が出会ったリュージュの森は、故郷として国にも認められた。
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それから五年後。



