時をかけた騎士と紅蓮の館の白き魔女

 ビアンカ同様、分野が違えばそれ以上の力を持つ超能力者であり技術者。その技術力とセンスで、「魔女」とまで揶揄されたチームのリーダーだった人。
 彼もまた、シャロンの側にいたことで前世の記憶を取り戻してしまったのだと気づき、シャロンは唇をかんだ。

 彼の故郷、モニセア地方の人間全員が魔王復活を信じていたわけではない。
 リーダー格の男はマトヴェイの父を支える補佐官であり、彼の妻は遊牧の民の姫だった。いつか現れる神の楽園と魔王がどう結びついたのかは分からない。だが二人の結婚により、残酷な計画は始まった。かつての遊牧民の姫が「魔王の力」を感じると言い始めたからだというが、彼女の言葉は不思議と人々を魅了したのだ。
 それはかつて一つの国だったモニセアを取り戻す夢と重なったのか……。

 その姫が半年前に亡くなったが男は諦めなかった。
 姫が亡くなったことで洗脳されてた人々は夢から醒めたようになり、男を信じる者は数えるほどの人数になったのにだ。だがそれは、領地の中枢にいる者達でもあった。

「大領主である私の父も含めてね。このままではモセニアは滅ぶよ。人民の生活を考えられないトップなんて、それこそ悪でしかない」

「それで、そなたはどうするつもりだった?」

 突然響いた声に振り向くと、国王が音もなく近づいていた。側にテオドラもいて、戸惑ったような表情をしている。

「これは陛下。このような格好で失礼を」

 後ろ手に縛られ跪いたままのマトヴェイは、苦笑いしながら会釈する。それからテオドラをみて、懐かしそうに目を細めた。

「――姫を連れ去ることに失敗したら、危険分子のほうを遠くに投げるのも一つの手か……などと思ってましたよ」

「そんなことが?」

 目を見張る国王を素通りし、マトヴェイは「君はどう思う?」とテオドラに問う。

「その罪は、私が一緒に負いましょうか」

 視線が絡んだことでマトヴェイの正体が分かったのだろう。テオドラが微笑んだのは、自分が一緒なら可能だという意味だ。不穏分子たちを、不毛の地に一緒に送りましょう――と。でもそれは国の法を無視した行為だ。

 シャロンが驚いて息を飲むが、マトヴェイは「相変わらず君は人が良すぎるよ」と笑い、「罪どころか被害者だろ」と事実を思い出させる。

 怖い思い、つらい思いをさせたことをつらそうに詫び頭を下げる男に、シャロンとテオドラは首を振る。自分たちよりさらに幼かった彼に、当時何が出来たというのだ。今だって洗脳されてきたが故に害を為そうとしたが、結局は王女を助けようとしていたのだ。

 男たちは地下牢に連れていかれた。マトヴェイの処分はまた後で決まるだろう。