「王女様もなぁ、素直にマトヴェイ様を選んでおけばよかったんだ」
リーダーとみられる年配の男が若い男を顎で示してそう吐き捨てた。言われたマトヴェイ本人はと言えば、事情がよく分かっていなかったのか諦めたのか、うなだれたまま目を閉じている。彼だけは髪飾りを付けていないことに気付き、ジェイクはその違和感に眉根を寄せた。
男たちは大声で宴の間姫へのアピールは欠かさなかったと口々に言い始めた。
マトヴェイの代理として、自治領の代表として、男たちは王女に贈り物もしたし、何度も話しかけた。だが姫が見ていたのは、異国の顔だけが綺麗な王子。今もネイディアの騎士に混ざって仲間を取り押さえている王子を見て、男は忌々し気につばを吐きかけた。
「姫が魔王として覚醒すれば、この国はおろか世界だって手に入る。こんな綺麗なお坊ちゃんの手には余るさ」
異様に目がぎらつく男たちに騎士たちの緊張が一瞬高まったが、ロイは自分につばを吐きつけた(距離があるので届きはしなかったが)男を冷たい目で見降ろした。
「愚かだな」
声は小さいが、その言葉はその場にいる全員に聞こえた。
込められたのは怒りと哀れみ。そして呆れだろうか。
「おまえたちの言う魔王は人ではないよ」
そう言って手のひらをあげると、紅蓮の館の本がその手の上に浮かび上がる。そこから飛び出した映像は爆発だ。兵器であることさえ分からないような強大な力。かつて一度この星を滅ぼしかけたものだ。
だが今この星にいる人間に、ここが一つの惑星であるという認識は消えてしまった。
「ここは失われた惑星だ。外は嵐のようで外部からの通信は途絶え、船さえ来ない。あれから何千年たったんだろうな」
そう呟いたロイは自分とテオドラ、そしてシャロンが、今も「魔王」の親になり得ることを知っている。紅蓮の館の知識を元にすれば材料をそろえることも不可能ではない。だが誰にもそれができないようにしたのがジョージ自身だと、ジェイクにこっそり教えてくれたのはミネルバだ。



