(俺)と「私」の諸事情



歌声が響く。

驚くほど自然だった。
シャウトもラップも、技術を誇示するような感じはない。
ただ、当たり前のように音程を掴み、当たり前のように会場の奥まで届く。

そして、ステージ上で白雪晴がしゃがんだ。
——え、ちょっと待って。
確かこのサビ前って、バック宙だったような。

……まさか、やるの!?
セツヤさんが「バク宙やらなくていい」っていうのを伝えに行ったって言ってたよね!?

白雪晴はバク宙の準備体制に入り、膝を軽く曲げて後ろへジャンプした。
空中で一回転しタンッと綺麗なフォームで足がつき、またダンスを踊り始めた。

え、え、ま、マジでやった...。
参加者達は「え、マジ?」とか、驚きの声で包まれる。
審査員もみんな目を見開いていた。
その中でセツヤさんは知っていたのか、満足した顔で眺めている。

おわぁ...。タイミングもバッチリだったし、体の軸を崩さず、綺麗だった。

「Silent Voltage 静かな雷のように
見えないままでもいい my heart goes to you」

サビに入る。
驚きでざわざわしていた会場が、静かになる。
視線がすべて、彼女一人に集まっている。

やっぱり。

ダンスのキレ。
歌の安定。
表情の変化。

どれも完成度が高い。
しかしそれ以上に、観客の感情を動かす「間」を知っている。

それは普通、経験を重ねて身につくものだ。

白雪晴の応募シートに目を向ける。
年齢の枠の中に書かれた文字は「13歳」だった。

「ははっ。」

思わず乾いた笑いがこぼれてしまう。

——一体誰がこの子に大きな経験をさせたのだろうか。

曲が終わり、最後のポーズで静止する。
一瞬、会場が静まり返った。

そして次の瞬間、爆発するような歓声。

……ラストは水谷蘭かと思っていたけど、この子もいいなぁ。
でも、水谷蘭には追いつかないが。

あたしはすっかり白雪晴のファンになってしまった。