今際の際に

 その日の夕方、不思議な来客があった。
 たいして仲良くもない……いや、むしろ嫌悪しているクラスメイト。クラスの女子のリーダー格たるAが、私の家を訪ねてきた。母に通されたらしい彼女は、俯きながら私の部屋に入ってきた。
 予想だにしない来客だ、驚いた私は、平静を装いながらも彼女に声をかける。
「……え、なに?」
 多分、嫌悪は隠せず、滲んでいたと思う。
 私が問うと、Aは突然震え出す。
 ──ガチガチガチガチ……。
 Aから漏れるその音は、部屋の静けさの中で異様に大きく聞こえた。
 歯だ、歯のあたる音。
「いる、いる、いる、いる、いる」
「は? ちょっと、人の家まで来て……」
 私がAに詰め寄ると、彼女の震えはぴたりと止まる。
 Aが顔を上げる。その虚ろな瞳に、私の姿は映っていなかった。Aは絶叫しながら私の方へ走ってくる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!!」
 涎を垂らし、白目を剥いてバタバタと走るその姿は正気のものではない。
 同時、私は全てを思い出す。
 Aは私をすり抜けて、そのままガラス窓を突き破っていった。少し間を置いて、窓の外から、湿り気を帯びた不快な落下音が響いた。
 放課後、夕日に照らされた教室で、私がやったのと同じように。あの日の私と全く同じに、彼女は死んだ。
 一つ違いがあるとすれば、地上までの僅かな間に、呪詛の言葉を吐かなかったことくらいだろう。