目の前に、好きな顔がある。近すぎて、視界が少しチカチカする。
東はそんな私とは正反対みたいに、短く息を吐いて「わかったらどいて」と言った。
……ご褒美、なんだけどな。こんなの。
もし今、このままキスでもしたら、東はどんな顔をするんだろう。
そう考えた瞬間、自分でも止められなくなりそうで、慌ててその思考を追い払う。
「西宮」
優しく肩を押されて、私はようやくベッドの上に体勢を戻された。
「俺だったからよかったけど、ほかの人にやったらどうなるか考えな」
少しだけ低い声。これはたぶん、怒ってる。
「…ほかの人にやらないし」
むっとして言い返すと、東はそれ以上何も言わなかった。
先生呼んでくるから、と言って、静かに保健室を出ていく。
……怒られた、というか、呆れられた?たぶん、初めて東にちゃんと注意された気がする。
でも、それなのに。胸の中のドキドキだけは全然収まらない。むしろさっきよりひどい。
ほかの人にやらないし。やるわけない。だって、東だけなんだから。
東に意識してほしかっただけなのに、気づいたらこっちのほうがぐちゃぐちゃにされてるの、どういうこと。
ベッドの上でひとり、私は小さく息を吐いた。
まだ耳の奥に残ってる東の声が、やけに消えてくれなかった。



