ハイスぺたちのお気に入り

「お前、俺のパートナーになれ」

「待って。僕も澪に一緒になってほしいな」

 ハイスペックな男子たちが私に手を差し出す。

 何もない私が彼らの『パートナー』?

 私と彼らとじゃ、住む世界が違う。

 それなのに私を誘うなんて、そんなこと、ありえない。

 でも。

「さあ、選べよ」

 なんでこんなことに⁉


「ねぇねぇ、昨日のドラマ見た?」

「見た見た! チハヤくんかっこよかったー!」

 朝の教室はちょっと騒がしい。

 みんな友達と顔を寄せ合っておしゃべり。

 この光景はどこの学校にもあるような『普通』に見える。

 ……見えるんだけど。

 本に目を戻そうとすると「澪!」と肩をたたかれた。

「おはよー! 何してるの?」

 ドンッと私の隣に通学カバンを置いたのは黒髪ロングの美少女。

 篠塚結愛ちゃんだ。

 私はパタンッと本を閉じて顔を上げる。

「おはよう、結愛ちゃん。重そうだね、何入ってるの?」

「あ、これ? 今日締め切りでさー。内職しようかなって持ってきちゃった」

 ニコッと見せてきたのは液タブ。そのほかにも、スケッチブックに、パソコンに……と次々出てくる。

「いったいどれだけ入ってるの? 魔法のカバンか何か?」

「あはは、こんなの序の口だよー」

 結愛ちゃんは笑ってるけどおかしいよ!

 それにこんなにたくさん、授業中に使ってもすぐバレると思うけど……。

 だけど私はすぐに思い直した。

 いや、ここなら何でも許されるのかも。

 天才ばかりのアムール学園なら。

 結愛ちゃんは座るとデジタルペンを握って液タブの画面に走らせた。

 すぐに可愛いドレスをまとった女の子の絵になる。

「見てー! 今度、小説の表紙のイラストを担当させてもらえることになったの! 提出締め切り見落としてて、急いで完成させなきゃなんだけどねー」

「またお仕事依頼? さすが売れっ子イラストレーター」

「えっへん! なーんて、恥ずかしいからやめてよ~」

 結愛ちゃんは褒められて嬉しそうにはにかむ。

 何を隠そう、結愛ちゃんの正体は人気イラストレーター・YUA!

 日々のイラスト投稿が話題になったのがきっかけで、本の挿絵や歌い手さんのイラストなど大活躍。

 今十代に最も注目されてるって、テレビで特集が組まれるほどの人気っぷり!

 え、なんでそんなにすごい人と友達なのかって?

 それは私が通ってる学校に秘密がある。


 ここは全国から天才の卵が集まる学園、アムール学園。

 全校生徒、何かしらの才能がある。

 例えばクラスメイトには、有名俳優、未来の野球選手、科学者……。

 日本一レベルのハイスペックな人ばかり。

 まさに雲の上の存在!

 そんなみんなの才能を高めるため、アムール学園は全面的サポートをしてくれる。

 例えば、アスリートを目指す子やモデルをしてる子のために、一人ひとりの体調に合わせた食堂メニュー!

 科学実験をしたい子のために、実験室を十個完備! もちろん、実験道具も材料もそろってる。

 極め付きは毎日変わる個人カリキュラム!

 希望すれば専属の先生がついて、かかりっきりで教えてくれる。

 みんなが憧れる、夢のような学園生活!

 そして、私はその中等部に通う二年生、若月澪。

 私の才能はというと……『ない』の。

 テストの点はかろうじて平均。運動音痴だし、絵が特別うまいわけじゃない。

 趣味は読書。

 だけど、速読ができるってわけじゃないし、難しい本が読めるわけじゃない。

 つまり、普通すぎる!

 幼稚園から通ってる子が多い中で、私は中学受験をして入学してきた。

 ハイスぺばかりの同級生の中で私は明らかに場違い。

 一年たってようやく、環境に慣れてきたところで……。

 なんでこんなすごいところに入学できたのか自分でも不思議。

 でもいいんだ。私は普通で。

 平穏な暮らしが送れるならそれで十分。

 結愛ちゃんは着々とイラストを描き進めていく。

「そういえば今日から文化祭準備始まるよね? 澪は実行委員とかなんないの?」

「私? ムリムリムリ! みんなの前に立つのとか、まとめるのとか向いてないよ」

「そう? 澪ぴったりだと思うんだけどなー。しっかり者だし!」

「結愛ちゃんは買いかぶりすぎだってば」

 普通の学校ならまだしも、アムールじゃ絶対にムリ!

 しかも文化祭っていえば、官僚さんも社長さんもいーっぱい来るような行事でしょ?

 こんなに普通な人が実行委員やってるなんて、呆れられちゃうよ!

 結愛ちゃんは少し残念そうに「そっかー」とつぶやく。

「じゃあ、今回も難航しそうだね。委員決め」

 アムールの行事では学習成果の展示も行われる。

 国中のトップたちが来るような場だから、みんな気合入ってて実行委員をやってるどころじゃないみたい。

 私は好きな本の読書感想文を書いて簡単に済ませるつもりだけど、結愛ちゃんは美術館に飾ってあるようなおっきなキャンバスにイラストを描いて展示するんだって。

「そういう結愛ちゃんは? 展示のイラストはもうできたんでしょ?」

「私は無理だよー。嬉しいことにお仕事いっぱいもらってるから頑張らなきゃ。放課後も打ち合わせで埋まってるし」

「そっか」

 結愛ちゃんを見てたら思わずため息がこぼれちゃった。

 いいな。みんな、自分の得意なことが決まってる子ばかりだ。

 何かを頑張ってる子って、すっごくキラキラして見える。

 私にも……何かあるのかな?

「ねえ、ちょっといい?」

 ふいに聞こえた声に顔を上げると、ドアのところでセンター分けの男子が立ってた。

 とたん、クラスの注目が一気に集まる。

「チハヤくんだ。間近で見るとますますかっこいい~」

「チハヤってあの、楠木チハヤ? ドラマに出てる俳優の?」

「そう! 最近は学校で見なかったのに、珍しいよね。今日は仕事お休みなのかな?」

 楠木チハヤくんは隣のクラスの男の子。

 彼の何がすごいって、連続ドラマに出てるほど大人気の俳優さんだってこと!

 でもなんで彼がうちのクラスに?

 彼はそばにいた女子に向かって尋ねる。

「遊馬いない? 僕、用があるんだけど」

「えっと、神宮寺くんは……」

 女子がタジタジしながら、あたりを見回すと、カタッとシャーペンを置く音が聞こえた。

「何? チハヤ」

 不機嫌そうにうなる声。神宮寺遊馬くんだ。

 彼は目にかかった髪を乱暴にかきあげる。

「お、いたいた。また数学の問題解いてるの? 今度は何のやつ?」

「懸賞金かけられてる未解決問題。どうやってもうまくいかねえ!」

「それで不機嫌なわけね」

 神宮寺遊馬くんは超有名な神宮寺財閥の御曹司。お父さんが銀行の社長さんなの。そして彼自身は数学の神童とも呼ばれる、数学の天才!

 すでに高校の数学も全部勉強し終わったってうわさ。 

 チハヤくんとは幼稚園からの幼馴染で仲良しなんだ。

「遊馬に数学の教科書借りてたでしょ。なかなか返せなかったからほらっ」

「そういえばそうだったな」

 楠木くんはポイッと投げる。

 教科書は神宮寺くんに向かって……いくはずが、

「あ、やば」

 方角を変えて結愛ちゃんの頭に直撃⁉

「結愛ちゃん、大丈夫⁉」

 あわてて駆け寄ると結愛ちゃんは教科書をどけながら勢いよく立ち上がった。

「遊馬ぁ~~~!」

「はあ⁉ なんで俺!」

 結愛ちゃんに詰められて神宮寺くんはぶんぶん首を振る。

「もう! 線ずれちゃったじゃん! 集中してたのに~!」

「投げたのチハヤだろ! 怒るならチハヤ!」

「チハヤはいいの!」

「なんでだよ!」

 どたばたしてるうちに、チャイムが鳴って当の楠木くんは「それじゃ、ごめんね」って颯爽と帰っていっちゃった。

 神宮寺くんは結愛ちゃんに投げ返されて「いってえ」と頭をさする。

「まったく。自分勝手なんだから」

 結愛ちゃんは腕を組み唇を尖らせる。

「結愛ちゃん、二人と仲いいよね。高嶺の花って感じで、みんな近寄れないのに」

「どこが? 腐れ縁だよ、腐れ縁」

 大人気俳優に御曹司の天才、だなんて、学園の中でもトップレベルのハイスぺだ。

 みんなにはひそかにトップ2って呼ばれて、軽々しく近づけないような存在。

 そんな二人とケンカできちゃうのは結愛ちゃんくらいだ。

「あ、もしかして、澪も友達になりたいの? おすすめはしないけど、今度遊びに誘ってみる? 二人とも、顔だけはいいからねえ」

「いやいやいや! 遠慮しとく! 恐れ多いよ!」

「そう?」

 結愛ちゃんは不思議そうな顔で首をかしげた。

 私なんかが遊びに行くなんてみんなから不審がられる!

 トップ2ファンの子だって多いみたいだし……。

 友達になった暁には全女子から反感を買っちゃうよ!

「はーい、朝会始めるわよ。席についてー」

 担任の谷口先生が入ってきて朝会が始まった。

「今日から文化祭の準備期間が始まります。クラスの実行委員を決めちゃいたいんだけど……って、みんな聞いてないわね」

 先生が困ったようにはあっと息をつく。

 私もつられてあたりを見回すと、みんなそろいもそろって机とにらめっこしてた。

 結愛ちゃんはイラストを必死に直してるし、後ろの子は模造紙に研究結果をびっしり書き留めてるところ。分厚い辞書を呼んでる子もいるし、神宮寺くんもさっきの問題に頭をひねっている。

 誰も聞く耳持たず!

「うーん、困ったわね。今日中に決めなきゃいけないのに」

 結愛ちゃんの予想通り、委員決めは難航しそう……。

 とはいえ、私も立候補はしたくないし。

「うーん、じゃあ、若月さん」

「は、はいっ?」

 反射的に返事をすると、先生はにっこり笑ってた。

「文化祭の実行委員、やってくれないかな?」

「……わ、私っ?」

 驚いて声が裏返る。

「いろんな教科の先生からも好評なのよ。若月さんはまじめに取り組んでくれてるって」

「それは……」

 真面目に聞いてなきゃ、テストで赤点とっちゃうからだよ!

 それでも平均点しか取れないから困ってるし。

 でも、それとこれとは話がちがーう!

「ほかにやりたい人いるんじゃないですか? 私なんかよりもっと適任が」

 そう言ってあたりを見回したけど、誰も聞いてない!

 みんな自分の作業に夢中でそれどころじゃないみたい。

 これじゃあ、私を助けてくれる人がいない⁉

 先生は軽くパンと手をたたいた。

「大丈夫、大丈夫。実行委員は一人じゃないから。もう一人は……あ、神宮寺くん」

 先生が呼び止めたのはちょうど先生の真正面に座ってた、神宮寺くんだ。

 先生は彼の肩をつかんでポンポンと叩く。

「ちょうどよかった。もう一人の実行委員は神宮寺くんね」

「は?」

 あくびをしてた神宮寺くんは体勢そのままに、みるみるしわを寄せていった。

「先生、今なんて?」

「あら、この前の遅刻を見逃してあげたの忘れたの? 今月もう十五回目よねえ。ご家族にご報告してもいいのよ」

「うっ……それやられると一か月外出禁止になる……」

 神宮寺くんは何かを悟ったように真顔になって、

「やる」

 一言つぶやいた。

 先生は満足そうににっこり。

「じゃあ、よろしくね、二人とも。早速今日から集まりがあるから」

 ええ⁉


「へー、やっぱり澪が委員になったんだ? 先生見る目あるね」

「へーじゃないよ! どうしよう! この後さっそく集まらなきゃいけなくって」

 先生に断れないまま、すぐ放課後になった。

 今日の放課後から実行委員のミーティングがあるって言うから行かなきゃいけないんだけど、神宮寺くんに話しかける勇気もないし……。

「澪ならできるって。遊馬、澪を困らせないでよ」

「あ?」

 通りすがりの神宮寺くんは眉を寄せる。

「はー。つうか俺も被害者だっての。篠塚、変わってくんね?」

「私はこれから打ち合わせだからムリー。じゃあ頑張ってね!」

「あ、おい!」

 取り残された私たちに気まずい空気が流れる。

 っていうか、私ちゃんと神宮寺くんとしゃべったことないのに!

 こういう時って何話せばいいんだっけ⁉

 キーンコーンカーンコーン

 放課後を告げるチャイムが鳴り響いた。

 クラスのみんなも、部活や習い事でどんどん少なくなっている。

「……そろそろ行くか。時間だし」

「う、うん」

 私、あの神宮寺くんと並んで歩いちゃってるよ⁉

 すれ違う人から心なしか視線を浴びている気がする。

 そりゃそうだよね。財閥の御曹司であの神童が、なんでこんな平凡女子と連れ立ってるのかって気になるよね!

 肩身が狭くなりながら私は集会室に入った。

「うわ、暗っ」

 神宮寺くんが隣で思わず顔をしかめた。

 真正面の窓はカーテンが閉め切っていて太陽の光が全く入ってきていない。

 おまけに電気も真っ暗だ。

「まだ誰も来てないのかな?」

 私がそばのスイッチを押すとガタンッと物音が聞こえた。

「あれ、遊馬じゃん! もしかして遊馬も実行委員?」

「その声は、チハヤ?」

 照明の明るさに目が慣れてきたころ、歩いてきたのは楠木くんだった。

 思いがけないトップ2の勢ぞろいに目を白黒させる。

 なんで楠木くんがここに?

「もって……お前も委員なのか」

 楠木くんは嬉しそうにうなずく。

「そそ! 僕、立候補したの」

「撮影で忙しいんじゃなかったのか? 委員やってていいのかよ」

「だって面白そうじゃん。僕こういうの大好き~」

 楠木くんは私の方にも目を向ける。

「そっちの子は? 結愛とよく一緒にいるよね」

「わ、若月澪です……」

「澪ね。いい名前。これからよろしく!」

 楠木くんに手を差し出されて反射的に握手する。

 わ、私、芸能人と握手してる……?

 頭が真っ白になってショートしちゃいそう!

「ほかに人は? まだ集まってねえの?」

「あー、うちのクラスからもう一人。あそこにいるよ」

 楠木くんが指さすのは乱雑に机が置かれているところの裏だ。

 よく見るとはねた髪の毛が見えている。

「僕、明るいところ苦手なんです……」

「彼は清水広翔くん。宇宙が専門で夜ばっかり外に出てるから、光が苦手になっちゃったんだって」

「だから電気消してたのか」

 清水くんはポケットからサングラスを取り出して耳にかけた。

「ふう、これで安心」

 彼は物陰からひょこっと立ち上がるとてくてく歩いてくる。

 栗色の丸い髪にくりっとした大きな目の男の子だ。

「どうも。清水です。よろしくお願いします」

「若月です!」

 礼儀正しくお辞儀するのにつられて私も勢いよく直角に腰を曲げた。

 楠木くんが「澪、お辞儀深すぎっ!」っておなかを抱えて笑ってる。

「集まってるのはこれで全員か? 他クラスとか他学年は」

「あはっ。たぶんみんな自分の展示で忙しいんじゃないー? それを言うなら僕もなんだけど」

「自主的にミーティングを欠席してるクラスが大半ですね。僕聞きました」

「まじかよ」

 神宮寺くんは思わずため息を漏らした。

 私は朝会の時のことを思い出した。

 確かに、みんな必死だったもんね。

 でもこんなに少ないならミーティングどころじゃないだろうし……実行委員もなしってことにならないかな!

 なんて淡い期待を抱いていると、ドアがスパアンッと開いた。

「いやあ、遅くなってごめんね~。諸君、ミーティングの準備はできたか! ……って、うわ少なっ」

 どっひゃあ、と大げさに驚いてみせるのは高身長の男の人。

 左腕には生徒会の腕章をつけている。

 生徒会の人……?

 楠木くんが、あっと声を上げる。

「もしかして、森生徒会長ですか? この前研究論文が理事長に表彰されてた」

「お、知ってくれてるの嬉しいな。いかにも、俺が森信之介。漢字が好きで研究してるんだ」

 森生徒会長はエッヘンと胸を張ってみせた。

 さすが生徒会長さん。三年生ともなるとやっぱりすごい研究をされてるんだな。

「にしても、今日これだけしか集まってないの? 困ったな~。顔合わせしたかったのに」

 生徒会長は頭をかき困ったような顔だ。

「今日はパパっと説明して終わりにしちゃうね~」と言って椅子を引っ張り出してきてドカッと座る。

実行委員のお仕事は主に三つ。

 一つ目は個人展示の設営のお手伝い。クラス単位で展示をするから、それをまとめなきゃいけないらしい。

 二つ目は生徒会の出店のお手伝い。これは毎年生徒会がいくつか屋台を出してるんだけど、その店番とか。

 そして三つ目はとっても重要!

「うちの文化祭は全国、いや世界中から人を招くでしょ? 社長だったり大臣だったり。その方たちをご案内するのも、実行委員に任せようと思ってる」

「お出迎えですか。それは荷が重いですね……」

 清水くんがぶるぶるっと身震いした。

 偉い人たちと直接会わなきゃいけないってこと⁉

 私もなんだか緊張してきちゃったよ。

「君たちにやってもらう仕事は以上の三つ! 分担とか詳しい情報はまた後日連絡するよ」

 来たばかりなのに生徒会長はそそくさと立ち上がろうとする。

 神宮寺くんが怪訝そうに聞いた。

「なんか用事でもあんのか? そんなに急いで」

「俺もみんなと同じだよ。展示の準備進めなきゃ。じゃあ、またねっ」

 この学園の生徒会長のことだ。きっとすごい展示を見せてくれるんだろうな。

 対して私は原稿用紙三枚の感想文で終わらせようとしてるなんて、口が裂けても言えない。

 なんだか自分が情けなくなってきたよ……。

 生徒会長は本当に帰っていっちゃって、集会室には私たち四人が取り残された。

「展示かあ。僕もそろそろ始めなきゃな。遊馬は何にするのか決めたの?」

「俺はいつも通り未解決問題の証明を提出するつもり」

「僕はブラックホールについての研究結果をまとめるつもりです」

 みんなの口からは私より数千倍高難度な言葉が出てくる。

 はああ。

 思わずため息をついちゃった。

 分かっていたことだけどみんなは私とは明らかにレベルが違う。

 やっぱり先生にはちゃんと断っておけばよかったのかな。

 こんなすごい人たちと一緒に委員やるなんて身の丈に合わないことだったんだ。

 それなのに私がまとめ役なんて。

「私なんかにできるのかな……」

 口に出さないつもりが思わず出てたみたい。

 楠木くんが首をかしげる。

「どうしたの?」

「あ、いや。何でもない……」

 彼はふうんと目をそらしたけど、今度は神宮寺くんがじっと見つめてる。

 しかも私をにらんでるみたいに……。

 な、なに?

「なんか、なんかって、そればっかりだな。お前」

「え?」

「嫌になんねえのかよ。自分を卑下してばっかで。ちょっとは自信持てば?」

 なんで神宮寺くんはわかったんだろう。

 図星をつかれた気がして、彼の目を見ることができなくてうつむいた。

 そうだよ。私は自分に自信がない。

 だって、私にはみんなみたいな才能も得意もないもの。

 神宮寺くんはいいよね。御曹司で数学の神童ってみんなから尊敬されてて。

 生まれた瞬間からハイスペックな人には何もない人の気持ちなんてわからないんだよ。

「神宮寺くんには関係ないよ。放っておいて!」

 はっきりきっぱり言い放った。

 思いっきり否定しちゃった。

 ああ、私、神宮寺くんに嫌われたかもしれないな。

 そう思っていたら私の手をガシッとつかまれた。

「なら……お前、俺のパートナーになれ」

「……へ?」

 顔を上げると神宮寺くんが至近距離でのぞき込んでる。

 私は一気に顔が真っ赤になった。

 いやいやいや、どういうことっ?

 パートナーになれ? それって恋愛的な意味で、こ、恋人みたいな?

 神宮寺くんがこの平凡な私にっ?

 今の文脈でどうしてそんなっ。

「俺、未解決問題解いてたら展示の準備してる暇ないんだ。人手が必要でさ。手伝ってくれよ」

 それを聞いて私はすっと真顔になった。

 そーいうことね。私に『研究パートナー』として自分の研究の手伝いをしてほしいって。

 つまりは相棒的なことだ。

 一瞬でも期待した私がバカみたい!

 なるほど、納得、納得……しないよ!

「わ、私が? 神宮寺くんの手伝い? なんで」

「お前、どうせ自分のやりたいこと見つかってないんだろ? 暇なら俺の手伝え。それに俺の研究にかかわってるうちに、若月が本当にやりたいこと、見つかるかもしれないだろ」

「そんな強引な!」

 最後の絶対にこじつけだよね! ただ手伝ってほしいだけだよね⁉

「えー、待って。遊馬だけずるい」

 今度は楠木くんが声を上げる。

「それなら僕も澪に一緒になってほしいな。まだテーマも決まってないんだよね~」

 楠木くんも⁉ その言い方誰かに聞かれたら勘違いされちゃうってば!

 トップ2二人に言い寄られるなんて、一体どういうこと⁉

 頭の処理が追い付かないまま、清水くんまで顔をずいっと寄せてくる。

「それを言うなら僕も人手が欲しいですよ。若月さんがよければ」

「さあ、選べよ。どいつのパートナーになんの」

 神宮寺くんがぐいっと腕を引っ張って自分の方に引き寄せる。

 もしかして、神宮寺くんって人との距離が近い方だったりする⁉ この距離感おかしいって!

 彼の手をほどこうにも力が強くて動けない。

 毎日シャーペンを握って数式を書く握力、恐るべし!

「だ、誰も選ばないから!」

 やっとのことでそういうと、彼はふーんとうなった。

「じゃあ、みんなの手伝いってことで。決まりね」

「……?」

 私は一瞬思考停止しちゃった。

 ちょっと待って。神宮寺くん勘違いしてない?

 私が選ばないって言ったのは、誰もやらないって意味で、誰にするか選べないって意味じゃなーい!

 私が呼び止める声は、展示のことしか頭にないみんなには聞こえてなくて。

 こうして私のハイスぺたちとのパートナー生活が幕を開けたのです……!