島江凪は、二度恋をする。 ~飛べない鳥に、恋の歌~

ウチら兄弟姉妹はいよいよ『通称ふくろうハウス』から巣立ち、木の上での生活に移っタ。
末っ娘のシズクは、あんなにおうちにずっと住んでいたいってぐずっていたクセに、今ではお陽様がのぼるとすぐに、「ナギネエ、早く食べ物探しに行こうよ」とツンツンくちばしでつついてクル。

「みんなが起きるまで、もう少し待つんダ。パパもママも言ってたよネ? ウチら家族は集団行動が基本ダッテ」
「ナギネエさんの言う通りだぞ、シズク」
パパが目を覚ましてシズクをたしなめる。

「シュウダンコウドウって、なに?」
シズクがクチバシを少しとがらせて聞く。
「みんなで一つにまとまり、団子になって行動することだ」
「なんでそんなことをするの? アタシは自由にノビノビ飛びたいなあ」
「いいかシズク、ハイタカなんかの恐い敵はな、一羽だけはぐれた小鳥を狙うんだからな」
パパはそう言ったあと、小声でウチに「ナギはお姉さんなんだから、シズクをちゃんと守ってやるんだぞ」とささやいた。ウチも「うん、マモル」とうなずく。八羽の兄弟姉妹は、先に卵から孵(かえ)った四羽が、後に生まれた四羽をそれぞれマンツーマン、じゃなくて一羽対一羽で守るようにパパとママから言いつけられてイル。 
ウチはといえば、「ナギはお転婆で、すぐどっかに飛んでっちゃうんだから」とママによく愚痴らレル。だって、食べ物をいっぱい探したいし、広い森や原っぱをいっぱい冒険したいし。特に今、お空は真っ青で、木や草はやさしい緑で、なにより、ウチの羽毛をくすぐる風が超気持ちイイ。これから暑くなって、涼しくなって、その後は寒―くなって、『雪』というものがいっぱい降るってパパが言ってたカラ、今ダケの気持ちいいお天気をエンジョイすべきでナカロウカ?

一番のネボスケ、四男のリクがあくびしながら、目を覚ましたので、家族みんなで朝ごはん探しに出かける。
「わーい!」と叫んで飛び立つシズク。
「ワーイワーイ」とその後を追うウチ。
「これこれ、ナギもシズクも離れちゃダメよ」さっそくママに怒られタ。

「よーし、今日はここで朝ごはんだ。でも、あの木とこっちの木を結んだ先には、飛んでっちゃだめだぞ」

パパが、羽で高い木を指し示して、ウチらが自由に飛び回っていい範囲を決めた。
今日は広―い原っぱに近い林で食べ物を探す。ココは、クモも青虫も、アブラムシもいっぱいいるので、ウチのお気に入りの場所ダ。特に青虫類の種類が豊富で美味。前にココに来た時もシマ姉ちゃんに「食いしん坊のナギでも、さすがにこの森は食べつくせないよね」とからかわれた。いったいウチのことなんだと思ってるんだろうネ!

さすがに森イッパイは食べられなかったけど、久しぶりに満腹になった。体が重くて飛ぶのがちょっとシンドイ。シズクがちょと上の枝に止まって食休みしているのでウチもヨイショっと彼女の隣りに移動シタ。なるほどココは見晴らしいがいい。いい風も吹いてイル。でも、見晴らしいはいいトコロは、敵にも見つかりやすいので油断大敵ダ、用心用心。

「ナギネエ、原っぱに白くて可愛いお花がいっぱい咲いてるよ。それに、ちょっと不思議な甘い香り」
「あ、本当ダ。綺麗で妖しい匂い……確か、ママが『ここは、夏の前にスズランがいっぱい咲くよ』って言ってたからそれかもナ」
「スズラン! もっと近くにまで降りて見てみたい」
「ちょっとシズク、待ちタマエ」
慌てて彼女の後を追う。空を見上げ、危険な鳥がいないか確かメル。

ウチとシズクで超低空飛行しながら、可愛い白い花々を眺めていたら、急になにかが目の前に現れた。
「高度をアゲロ。シズク!」そう叫んでウチたちは急上昇した。



「おーい、みんなーどこにいるー?」

その謎の生き物が大きな声を出した。なにかを探しているようでもアル。体も大きく、二本足で歩くイキモノ……コレはパパが言ってた、『ニンゲン』ではないだろうカ? ヤツらに捕らえられてシマッタ子供たちもいるって言ってたっけ? でも、羽も生えてないみたいだし、さすがにこの高さなら大丈夫ダロウ。


「おーい、返事してくれー」

なんかこのニンゲン、困ってナイカ?
「シズク、ついてきてクレ」
そう言ってウチは、おなかいっぱいで体が重たかったケド、目いっぱい羽ばたいてお空高く上ってミタ。

ホバーリングしながら首だけ動かしてグルリと周りを見回す。


イタ。

低い樹木が集まった木立ちの遥か向こう。このニンゲンと同じ格好をしたのが何匹も。
そうか。こいつ、ニンゲンの仲間とはぐれてしまったんダナ。デモ、群れから離れちゃったら、敵に狙われて危ないんじゃないカ?

ウチはちょっとだけ考えて、シズクにささやいた。
「先にパパやママのとこに帰っててクレ。怖い鳥もいなさそうだし、ここから急降下して森に入れば安全ダカラ」
「えっ、ナギネエはどうすんの?」
「ちょっとニンゲンを助けてアゲル」
「大丈夫?」
「ダイジョウブダ」

ウチは、シズクが森の中に帰ったのを見届け、原っぱに降りてイッタ。


「ジュルル、ジュルルル(気づくんダ)」

つかず、離れず。ウチは、ニンゲンの前の方、高度五メートルくらいでホバーリングしながら呼びかけた。

ニンゲンが顔を上げた。オスかな? 子供だろうか。


「チッチー、ジュリリリ(そっちじゃナイゾ)」

ウチは少しずつ空中を移動し、その子をUターンさせた。ヨシ、このまま真っ直ぐ歩いてくれ。ウチはゆっくり進む。でもその子、なんか不思議そうな顔をして、立ち止まってしまった。

「ジュリルリ、ツィーリリ!(さっさと歩け、このヤロー!)」
ようやっとその子はウチを追うように歩き始めた。

「君は、ひょっとしてシマエナガ?」
「ツリュリュ(なんて言ってるか、わかラン)」

「ひょっとして、僕を道案内してくれてるのか?」
「チーチー、ツリュツリュ(だから、わからん言っとるダロ)」

こんな不毛な会話をしながらも、その子はついてきてくれる。
そして、ナゾ会話の末、遂にニンゲンの群れが見えてキタ。


「お~い、みんなー」
走り出すニンゲン。

「お~い、コウイチー、なにやってんだよー」
手を振る仲間たち。

コウイチと呼ばれた子は急に立ち止まり、こっちに戻ってキタ。

「ありがとう、シマエナガ。おかげで助かったよ……また会えるといいね」
ウチを見上げ、手を振ってそう言った。そして笑った……笑ったと思ウ。
「チーチー」
ウチがそうささやいたら、ニンゲンの男の子は、何度も振り返って手を上げながら、仲間のところへ走っていった。

ウチも家族のところへ戻ロウ。
で……みんなのところに戻ったら、こっぴどくパパとママに叱らレ、くちばしで頭をコツコツ突かレタ。シズクも叱られてたみたいで、「ナギネエが悪いんだからね」と文句を言わレタ。

日が暮れたら『通称ふくろうハウス(今は不使用)』のそばの木の上でみんなで団子になって眠る。今日はいっぱい食べて、いっぱい運動したので、よく眠れそうダ。

ウチは夢を見た。
ニンゲンの子が夢の中でも言った。「ありがとう、また会えるといいね」って。アリガトウって意味はわからないけど、素敵な言葉。そして、その男の子の笑顔も素敵だった。
夢の中だけど、ウチはドキドキした。また会えるといいな、って思っタ。

翌朝。

隣りでくっついて寝ていたシズクから「ナギネエさ、急に寝言を言ったり、ウシシと笑ったりしてキモかった」と言わレタ。