まぼろしテンダー




「……東雲昴(しののめすばる)だけど」



名乗ると、男は、ふーん、とだけ言った。聞いてきたくせに、それだけ。なのに今度は、さっきとは別の意味で、じろじろと、嘗め回すみたいに私を見てくる。



……は?
何その目。


腹が立って、やり返すみたいに、今度は私が相手をじっと観察してみる。すると、なんだよ、と、あからさまに不機嫌な声。


いや、それこっちのセリフだから。


そう突っ込んでやろうかと思ったところで、ふと、手に握ったままのプリントが視界に入って、はっとする。

……そうだ。そもそも全部、私のせいだった。木から落ちて、人の上に降ってきたんだから、文句を言われても仕方ない。



それに。
よく見たら、この男――。


サラサラの深い黒髪に、整った目元、少し不機嫌そうな眉。無駄に高そうな鼻と、口元。制服の着崩し方も、なんだか様になってる。


……あれ?
もしかしてこの人、かなり美形なのでは?