まぼろしテンダー




私は2階くらいの高さまで、ほとんど猿みたいに必死で木を登った。手のひらはざらざらして、枝が細くて、ちょっと力を入れるだけでぐらつく。



――もう少し。
そう思って腕を伸ばし、指先が紙に触れた瞬間、ぐっと掴んだ。


そのときだった。



またしても、風。
強く吹き抜けた突風に体が持っていかれて、足元が一気に不安定になる。バランスを取ろうとしても、枝が思ったより細くて、支えきれない。



落ちる。


そう気づいた瞬間、時間がやけにゆっくり流れた。


ベランダのほうを見ると、なっちゃんが何かを叫んでいる。声は聞こえるのに、言葉がうまく頭に入ってこない。そして次の瞬間、視界いっぱいに、黒い何かが迫ってきた。



「……っ!」

「……いっ……てー!!」



お尻と背中に、ずん、と重たい痛みが走る。


息が一瞬、止まった。


同時に、下に何か――

いや、誰か、柔らかいものがある感触がして、私は状況を理解するより先に、頭が真っ白になった。