琴音なら絶対に覚えてる。
そう思っていたが、実際は違った。
「大野?誰それ」
「えっ?」
嘘でしょ?あれだけ大野の周りに群がってたのに。
「紗英、変な夢でも見たんじゃないの?」
いや、あれは絶対に夢ではない…はずだ。
あたしは同じクラスの女子に順番に聞いていった。
しかし誰もがこう言う。
『大野って誰?』
あんなに騒いでいた女子たちは、みんな不思議そうな顔をしていた。
「何で…」
何でみんな、大野のこと覚えてないの?
あんなに王子様呼ばわりしていた琴音も、「琥珀くん」って寄っていた女子たちも、誰ひとりとして大野のことを覚えていなかったのだ。
*
何気なく授業が終わり、今日の学校が終わった。
晴れたことだし、琴音と一緒に遊びに行きたいな。
そんなことを考えながら帰りの準備をする。
「これも持って帰らなきゃな」
机の中に置き勉していた教科書を持ち帰ろうと、全て取り出した。
すると、一枚の紙切れが落ちた。
「何だこれ」
あたしは紙切れを拾った。
すると、そこには文字が書いてあった。
『紗恵、好きだ』
これは間違いなく、大野の字だ。
「私の漢字、間違ってるよ…」
だけどそんな彼も、たまらなく愛おしかった。
あれはやっぱり、夢ではなかったのだ。
確かに、大野は存在した。
あたしは紙切れをぎゅっと胸に抱きしめた後、大切にカバンの内ポケットに入れた。

