あの夏、キミが描いた青空


このまま大野も帰るんだろうな。



そう思ったが、大野はあたしの方へ視線を向けた。



「おい、いるんだろ?」



いつの間にか、気づかれていたようだ。



もう隠れることはできないし、あたしは角から出た。



何となく気まずくて、大野の顔を見れない。



「さっきの、どこから聞いてた?」



大野がこれまでないくらい低い声で言った。



嘘を付くべきか、それとも本当のことを言うべきか。



迷った挙句、本当のことを言った。



「実は全部聞いてたの。で、でも聞くつもりはなかったんだよ!?忘れるから。ごめんね」



そう言って大野の横を通り過ぎようとしたあたしの腕を、大野が掴んだ。



そのまま腕を引かれて、大野の腕に収まる。



大野に抱きしめられるのは2回目だ。



何だか心地よくて、心が温かくなっていく気がする。



あたしも大野の背中に腕を回そう。



そう思って手を動かしたが、すぐにその手を止めた。



それは、さっきの琴音の姿を思い出したからだ。



琴音の恋を応援するって決めたのに、ここであたしが大野に心を許してしまえば、あたしは裏切り者になる。



そんなことしたくないし、絶対にできない。



大野の腕を振り解こうとしたとき、大野が口を開いた。



「紗英、俺、お前のことが…」



これ以上は聞いてはいけない。



あたしの心が、カラダがそう言っている。



あたしはすぐに大野から離れた。



そして、そのまま傘を片手に走り去った。



ー『紗英、俺、お前のことが…』



これが、あたしが最後に聞いた大野の声だった。