大野はゆっくり歩いていて、後から来たあたしたちは簡単に追いついてしまった。
「おい大野。もっと早く歩かんか!」
平松先生が後ろから叫ぶ。
「これが限界でーす」
大野はダラダラと歩きながら返事をした。
「全く…」
平松先生は呆れたようにため息を吐いた。
大野は時々チラッと後ろを振り返る。
その時にあたしと目が合う。
もしかしたら大野は、あたしを気にかけてくれているのだろうか。
だとしたら、あたしは大丈夫だって伝えなきゃ。
「大野。あたしは大丈夫だから心配しないで」
そう言うと大野は、
「べ、別にお前の心配なんかしてねぇよ…」
明らかに動揺している様子だ。
だが、あたしはこれ以上何も言わなかった。
しばらくして、みんなの姿が見えてきた。
「琥珀くん戻ってきたよ!」
「きゃー!琥珀くん!」
「どこ行ってたのー?」
女子たちの声が聞こえてくる。
よかった…戻ってこれた。
女子が大野に群がる中、琴音はあたしの元に来てくれた。
「紗英、大丈夫?」
琴音に心配されちゃった。
何とか言わないと…。
そう思ったが、もう声すら出せないくらいにあたしは弱っていた。
「高木は高熱なんだ。そっとしておいてあげてくれ」
あたしの代わりに平松先生が答えてくれた。
琴音はひとこと「お大事に」と言うと、大野の元へ走って行った。
たくさんの女子が群がっているせいで、傘が折れただの、服が濡れただの、大野の周りに群がる女子たちが次々に不満を口にする。
そして、一部では言い合いが起きていた。
そんな光景に見兼ねた平松先生が、
「おい、静かにしろ。バスに乗るぞ」
と言った。
平松先生にそう言われて、女子たちは渋々大野から離れてバスに乗っていった。
けれど、大野が乗るとまたきゃあきゃあ騒ぎ出す。
あたしは熱があるということで、元々空いている1人席に座った。
すると大野が手を挙げた。
「せんせー。高木が心配なので、俺、高木の後ろ座っていいっすか?」
平松先生は振り向いて、
「変にちょっかいかけるんじゃねーぞ」
と言った後前を向き、運転手さんに話しかけていた。
平松先生から了承を得た大野は、あたしの後ろの席に座った。
そして大野の後ろには、もうひとつ空席がある。

