その後、大野と話すことはなかった。
バスに乗って約1時間でキャンプ場に着いた。
バスからおりると、大野は傘を片手にあたしの手を引いて森の中へと走り出した。
後ろから先生の声が聞こえるが、何を言っているかまでは聞き取れない。
全速力で走る大野に、ついていくのに必死なあたし。
「大野、どこまで行くのよ。ちょっと休憩」
しばらく走った後、あたしは木の影にしゃがんだ。
その隣に大野もしゃがむ。
「女子に絡まれたら面倒だろ?ここまで来れば大丈夫なはずだ」
そう言って大野は、あたしの頭に手を置いた。
何だかドキドキする。
あたしはドキドキする気持ちを紛らわせようと、一度ため息を吐いた。
「ため息なんて吐いてどうしたんだよ。幸が逃げるぞ?」
あたしがため息を吐いたのには、もうひとつ理由があった。
「雨、止まないなーって思って。もうそろそろ止んでくれてもいいのに」
これはずっと思っていることだ。
「雨だって別にいいだろ」
大野は悲しそうな顔でそう言った。
「たまにはいいけどさ、流石に毎日は嫌だよ」
あたしの言葉を聞いて、大野はさらに落ち込んでしまった。
「俺は毎日雨がいい。雨じゃないと困る」
やっぱり大野は雨に思い入れがあるようだ。
「何でそんなに雨が好きなの?」
あたしは何となく聞いた。
すると大野は黙り込んでしまった。
何かいけないこと聞いちゃったかな?
あたしは謝ろうと口を開いた時、大野が言葉を発した。
「…いや、別に何も」
ただ、それだけ。
「何もって…何もないなら晴れたほうがいいじゃん」
あたしは軽い気持ちで言った。
けれどこの言葉は、大野を傷つけることになった。
「よくねぇって言ってんだろ!」
急に大声で怒鳴る大野に驚いて、動けなくなるあたし。
「何よ、そんなに怒鳴らなくてもいいじゃん!」
あたしも言い返す。
「大体な、お前は俺のこと何も知らないくせに余計なこと言うなよ!俺は雨じゃなきゃ生きていけないんだ!」
大野のことなんていちいち知らないし。
何なの?雨じゃなきゃ生きていけないって。
意味わかんないんですけど。
「大野こそ、あたしの気持ち知らないくせに!」
そう言い残して、あたしは森の奥へと走って行った。

