「わたしってどうして存在しているか、自分でもわからないの。気がついたら莉菜の私室とまったく同じ造りの【鏡の部屋】にいた。違うのは、あくまで鏡の中であるってこと。莉菜の一部だとは思うけれども、莉菜とは心が繋がっているわけじゃない。だから鏡として見て知っていることはあるけれど、莉菜の心を理解しているわけじゃないってこと、かな」
改めて説明しようとすると難しいなぁ。
莉菜は感覚的にわかってくれたみたいだけど。
鳴海は再び考えるように、口元に手を持っていって静かになっていたけど、やがて小さく息をはいた。
「つまり、目の前にいるお前は、楠木の姿をしているけれど、別人ってことだよな?」
「うん……でも完全に別人というよりは、分身とか? わかっていると思うけど、学力とか体力とか、能力的なものは莉菜そのものだよ」
「それで鏡の中にいたけれど、今は外に出てきている、と。それなら、楠木はどうしているんだ?」
「莉菜は、今は【鏡の部屋】にいるの。わたしたち、入れ替わっちゃったの」
「なんで?」
「それは……」
多分、一番は莉菜がテストが嫌だったからなんだろうけど。
でもそれを鳴海に言っていいのかな?
そして入れ替わりの原因はそれだけじゃない。
きっとわたしが無意識のうちに外に興味を持っていたんだ。
莉菜が逃げたい気持ちと、わたしが外に出たい気持ち。両方が重なって入れ替わっちゃったんだと思う。
片方の思いだけじゃ変われないんだ。
莉菜が繋がらなくて不安だったって言ったあの時、あれはわたしが完全に気持ちが【鏡の部屋】になかったから起きた現象だから。
そうだとすると、入れ替わりの原因はわたしにもある。
わたしが、外に興味を持ったことも理由の一つなんだ。
「楠木は、入れ替わって、大丈夫なのか?」
入れ替わりの理由を言い渋ったわたしに気遣ったのか、鳴海が質問を変えてきた。
「う、うん! 入れ替わっていても鏡を通して会話ができていたから……元気、だよ」
その言葉を聞いて、鳴海がちょっと安心したような顔をする。
心配、したんだ。
さっきから気づいていた。
鳴海って思った以上に莉菜のことわかっている。
莉菜のこと嫌っていると思っていたけれど、そうじゃない。
嫌っていたらこんな心配しないもん。
莉菜は今、どんな気持ちでわたしたちの様子を見ているんだろう。
入れ替わりのこと、鳴海に知られたくないって思っていたかな?
今でも鳴海のことをムカつくやつだって思っているのかな?
心が繋がっていないから、その辺のことはわからない。
だからもし、知られたくないと思っていたら、ごめんね、莉菜。
鳴海が気づいてくれたこと、わたしは嬉しいって思ったんだ。
今日で最後なんだし、許してね。
そう、最後なんだ。
「わたしは、今日まで。明日には莉菜が戻ってくるから、心配しないで」
笑って言おうって思っていたのに、なんだかピクピクとひきつっている気がする。
悲しいことなんかじゃない。
元に戻る。それが本来の形なんだから。
笑え、わたし。これ以上、泣いちゃダメ。

