ミラー☆みらくる!

 ――楠木のはずなのに、違和感が拭えない。

 鳴海の言葉は的確にわたしの状況をとらえている。
 わたしは莉菜だけれど莉菜じゃない。

 でも……違和感ってどこまで気づいているの?
 だって見た目も声も、莉菜そのものなんだから。

 違和感と言った鳴海の言葉に驚きと嬉しさの気持ちが入り混じる。
 思わず話してしまいたい衝動に駆られながらも、信じてもらえないかもと思うと言葉にならない。

 それに今日でもう、終わりなのに。
 夜には入れ替わってわたしは元の【鏡の部屋】へ戻る。
 本来の莉菜が戻ってくる。
 そうしたら鳴海が感じている違和感はきっとなくなる。
 今、この場でわたしが何も言わなければ、この話はここで終わるんだ。
 終わるん、だ。

 莉菜のためには、言わない方がいいってわかっている。
 だけど、なかったことにしたくない自分が、どこかでいる。
 違和感を感じたと言ってくれた鳴海なら、わたしのことをわかってくれるかもしれない。

 たとえ元に戻っても、わたしのことを憶えていてくれるかもしれない。
 誰かに憶えていて欲しい。わたしという存在がいたことを。
 そんな欲が芽生えてしまった。

「……信じられないような話、しても、いい?」
 ごめん、莉菜。
 頭の片隅で言わない方がいいと思っているのに、目の前の鳴海が優しく笑うから、その瞳にすがってしまった。

「あぁ。違和感の答え、教えてくれるなら」
「違和感……どこが気になったんだろう? 見た目、じゃないよね」
「そうだな。見た目は変わらないよ。でも……俺の知っている楠木は、もっと皮肉れているし、素直じゃない」
 あんまりな言い分に思わず笑ってしまう。
 きっと今、【鏡の部屋】でこの様子を見ているだろう莉菜は怒っているんじゃないかな。

「頑張り屋ではあるだろうけど、もっと嫌なことからは逃げるタイプだし、冷静に考えて頼まれたからってあんな素直に俺とペアを組むとは思えない」
「あー……そうかなぁ」

 でもあの状況だったら、莉菜だって仕方なしだとしても了承したんじゃないかな。
 だって、ほかにどうしようもなかったしね。

「最初に強く違和感持ったのは音楽室だよ。俺のこと『イイやつ』なんて、楠木からは世界がひっくり返っても出てこない」
「それは、芹香ちゃんが日頃言ってたからだよ。実際に関わってみてそうだなって思っただけ」 
「ペアで勉強を始めてからも俺がきつく言っても素直に受け取るし。普段の楠木なら最終的にやることになるとしても三倍は文句言ってただろうな」
「それ、あんまりじゃない?」
「いいや、断言できるよ。絶対にもっと大変だった」
 莉菜の評価があんまりすぎて、思わず笑ってしまう。
 それだけ二人の仲はこじれていたんだろうし、実際わたしも鳴海とペアを組む前段階ではそう思っていた。

「なにより楠木が俺の前で泣くとは思えないな」
「それは……」

 泣くという感情が、わからなかったから。
 涙が零れて、はじめて泣いているということに気がついたんだ。