ミラー☆みらくる!

 教室に入ると、鳴海はいつもの席で待っていた。
 朝勉はじめてからの定位置。窓際の一番前に後ろ向きで。
 たった数日なのにその景色が当たり前すぎて、なんだかホッとする。

「ちゃんと拭いたか?」
「うん、ありがとう。タオルは……洗って、返すね」

 返すのは、わたしじゃないけど。
 手にしていたタオルを思わず両手で強く握りしめる。
 鳴海が向けてくれた優しさが、心にスッと染み渡る。

 こうして人に優しくされることも、もう、ないんだ。
 こうして朝、一緒に勉強することも、もう、ないんだ。
 勉強して怒られることも、さっきみたいに嫌味っぽく言われることも。
 皮肉気に笑う顔も、時折見せる真剣な顔も。
 全部全部、もう、これで終わりなんだ。

「……どうした?」
 鳴海が驚いた表情をして、席から立ち上がっていた。
「え? なんにも……」

 なんにもないと言おうとして、タオルを握りしめた手に、雫が落ちたことに気がついた。
「あれ? まだちゃんと拭けてなかった、かな」

 違う……。
 これは、雨じゃない。
 そっと指を頬に持っていけば、濡れていることを実感する。

 そっか。これが、泣く、ってことなのか。
 莉菜が泣いている姿を見ていた時さえ泣けなかったのに、なんで今泣いているのかわからない。
 でも、胸の奥がギュッとして、こらえきれないものがある。
 最後の日なのに。だからしっかり勉強したかったのに。

「ごめんっ」
 その場にいるのが苦しくて、たまらなくなって。
 鳴海の顔をみられなくって、わたしは教室から飛び出した。