ミラー☆みらくる!

 傘をさしながら、一歩一歩、水たまりを避けて歩いていく。
 普段とは少し違う灰色の空を見上げる。だけどなんか悪くないな。

 雨が傘に当たるとこんな音がするんだね。
 時折、街路樹の下を歩くとまとまって、バラバラッて激しく落ちてくる。
 傘に当たる衝撃に驚き、水たまりに落ちる雨粒の波紋が重なる。
 雨粒って地面に落ちると、思ったより跳ねるんだ。

 何気なく鏡から覗いていた時には、こんなこと気づきもしなかった。
 ひとつひとつの発見が楽しい。
 傘にはねる雨のリズムが心地いい。

 うん、雨って悪くない……なんて思っていたのは、学校に着くまでだった。

 昇降口に到着して傘を閉じたところで、自分が思ったより濡れていることに気がついた。
 腕も、スカートも、靴もビショビショ。
 歩いている時は妙に雨で浮かれていて、気づかなかったんだ。

 うわぁ、ちょっと気持ち悪いなぁ。
 スカートを軽くつまんでみると、なんだか重たい。
 完全にぬれたわけじゃないけど、思ったより雨が染みこんだみたい。

「傘さすの、下手過ぎじゃね?」
「え?」
 下駄箱の前に、鳴海が呆れ顔で立っていた。

「鳴海、今日も早いね」
 今日は鳴海より先に来ようと思っていつもより十分早く家を出てきたのに、勝てなかった。
 何時に家出てきたんだろう?

「お前が遅いんだろう?」
「そんなことないよ。だって……」
 言葉を続けようとしたら、顔に何かが当たった。
 痛くはないその感触を確かめると、タオルだった。

「教室水浸しにされても困るからな」
 いやみったらしく笑いながら鳴海は階段を昇っていった。

 あれ? そういえば鳴海、鞄を持っていなかった。
 ひょっとして一度教室に行ったのに、わざわざタオルを届けに来たの?

「わかりにくっ」
 思わず口にして笑ってしまう。

 莉菜も素直じゃないけど、鳴海も本当に素直じゃない。
 多分、ペアを組む前だったらこの優しさに気付けなかった。
 嫌味なこと言ってとか、悪い方にしかみなかった。
 そうじゃない。その言葉の裏にある優しさに今なら気づける。
 ありがたくタオルを使わせてもらって、濡れた腕を拭いていく。

 そういえば【鏡の部屋】から飛び出した初日も、ずぶ濡れになったわたしをお母さんがタオルで優しく拭いてくれたな。
 トン、トンと、髪を、制服を、腕を拭ってくれたお母さんのぬくもりを思い出す。

 初めの日がずぶぬれで最後の日もずぶぬれか。
 でもこの濡れた感覚や重みが、現実の世界だって実感させてくれる。
 この重みさえ、わたしはきっと忘れない。