ミラー☆みらくる!

「おはよう、お母さん」
「おはよう」
 わたし用にリンゴジュースを注ぎながら、お母さんが返事をしてくれた。

 そういえば中学に入ってから莉菜はいつも忙しなくて、朝食も食べるというよりとにかくお腹に入れる感じだった。
 こうして当たり前のように用意されている朝食を、味わうこともなく椅子に腰かけることもなく流し込んでいた。
 椅子にきちんと腰かけて、お母さんが用意してくれた卵トーストをパクッとかじる。
 カリカリに焼けたトーストとふわふわの卵が絶妙で、莉菜の大好物の朝食メニューだ。

「美味しい」
 【鏡の部屋】に戻ったら、もう食べるということがなくなる。
 あの中にいる間は食欲というものがわいてこなくて、お腹が空くこともない。
 そもそも食材っていうものが存在しないんだけどね。
 だから、ゆっくり味わって食べよう。
 食べるっていうのがこんなに美味しくて、幸せなんだって、憶えておこう。

「ふふっ。なんだか最近、素直ね」
「そう?」
「そうよぉ。ちょっと前までは『美味しい』なんて全然言ってくれなかったじゃない」
「それは……」

 莉菜だって本当は美味しいと思っていた。
 でも、照れくさくて素直になれなかったんだよね。

「言わなかっただけだよ。言わなくても通じるって思ってたの」
「またまたぁ。調子いいんだから」
 ケラケラと笑いながらキッチンの方へと行ってしまった。

 本当だよ、お母さん。
 莉菜は素直になるのが恥ずかしかっただけなんだよ。
 あたたかいトーストからお母さんの愛情が伝わってくるのを感じながら、ひとくち、ひとくち、大切に味わった。